アベノミクスで「労働分配率」が低下する理由 最新のGDP統計から見える日本の実態

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そのこと自体は良いことだが、日本の人口が増えていない以上、雇用者数の増加はいつか天井にぶち当たる。長時間労働の問題と人口減少を考えると、雇用者報酬を増やすには結局、1人1時間当たり賃金を増やしていくしかない。

ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済調査室長は「労働者側の賃上げ要求が低いうえ、デフレが長く続いたので賃上げが当然だと思っている人が減っている。アベノミクスで賃上げが実現したというが、それはベアが復活しただけで昔と比べると水準は低い。それまで10数年ベアがゼロだったのでベアを獲得したことに重きが置かれ、そういう意識が労働者側にしみ付いている」と指摘する。

可処分所得は増えていない

同じ国民経済計算のデータを使い、税・社会保険料負担と利子・配当収入を加味した家計の可処分所得を計算してみると、6年連続で雇用者報酬の伸びを下回っている。

当たり前のことだが、消費者は税金や保険料の負担を差し引いた可処分所得をもとに消費を決める。「家計の所得は雇用者報酬ほど伸びていない。所得が伸びても消費はふるわないというが、最終的な可処分所得の下押し圧力が続いている。家計への分配を賃上げの形で増やさないと経済は正常化しない」(斎藤氏)。昨今の消費不振はやはり、家計の可処分所得が増えていないせいだと言えるだろう。

1月に入って発表された流通各社の決算でも「消費者は買い物に慎重になっている」という趣旨の発言が飛び出している。

消費はなぜ伸び悩んでいるのか。実質賃金の伸び悩みなのか。それとも、社会保障をはじめとした将来不安説、はては消費税主犯説まで、さまざまな読み解きがなされている。しかし、昨年末に発表された年次推計から読み解くと、主犯はやはり賃金の伸び悩みであると言えそうだ。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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