「解雇の金銭解決」反対論は既得権益の保護だ 「労働者に不利」は疑ってかかったほうがいい

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裁判所での紛争解決であれば、和解金の水準もそれなりに高くなります。しかし、行政手続きになるとかなり悲惨です。行政による無料の紛争解決手続きである「個別労働紛争解決制度」における解決金額は、8割以上の事案で100万円未満です。また、10万円以上20万円未満という非常に低額での解決が、24.9%と最も多い水準になっているのです(厚生労働省「個別労働紛争解決制度の施行状況」 )。これらのことは、日本の解雇についての偽らざる実態です。

「解雇の金銭解決は労働者に不利だ」という意見が多く聞かれますが、本当にそうでしょうか。筆者は、解雇の金銭解決により、「有利」になる人と「不利」になる人との両方が存在すると見ています。まず、間違いなく「有利」になる人は存在します。一例を挙げると、弁護士に頼む手間とおカネがない人、これまで泣き寝入りしていた人、次の転職が決まっている人などでしょう。

そもそも、解雇された人の中で、費用と時間をかけて弁護士に相談・依頼して、裁判手続きを利用するのはごく一部でしょう。多くの人が、単純に泣き寝入りしているか、またはさっさと次の転職先を見つけて争うことをしないのが実態です。つまり、弁護士に依頼して裁判所の紛争解決手続きを利用するのは、ごくごく一部の労働者なのです。

今では、法テラスや相談料無料の弁護士事務所もあり、弁護士費用で訴えることをあきらめるというケースは少ないと思います。要は、「わざわざ裁判をするのが手間」という時間的問題が大きいのではないでしょうか。その場合、裁判をすることなく金銭を得られれば、プラスしかありません。また、現実に目の前にあるキャッシュは大事ですから、行政手続きで10万円程度の和解をしてしまうのであれば、金銭解決制度によってまとまった金銭を手に入れたほうが労働者保護になることは明らかです。

明らかに「不利」になる人とは?

一方で、解雇の金銭解決により明らかに「不利」になる人もいます。典型的なのは、大企業の正社員で、その中でも特に実力に見合わない高給を受け取っている人でしょう。業務内容にミスマッチがあったとしても、現在の労働法では簡単に解雇をすることができませんし、賃下げも容易ではありません。解雇の金銭解決が制度化されれば、まずは業務内容の割に著しく高給を貰っている人がターゲットになることが想定されます。そのような方は当然に解雇の金銭解決に反対でしょう。

また、意外と多いのが(一部の)中小企業経営者による反対です。現時点では、解雇をしても特に訴えられることもなく、何人も泣き寝入り解雇をしてきたという会社は少なくありません。むしろ金銭解決制度が導入され、解雇の度に「○カ月分」などの金銭を支払うことは、余計な出費と考えるのでしょう。これは、そもそも大企業と中小企業とで労働法の順守状況が大きく異なるのが根本原因です。しかし、金銭解決による解雇を強化することで、少なくともそのような中小企業の労働者にとっては、今よりも状況は改善されるでしょう。

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