最後に、鋭い反対意見を見せるのが、弁護士です(私もそうなのですが……)。弁護士の世界では、労働事件について「労働者側」「使用者側」で意見が分かれることが多いです。しかし、「解雇の金銭解決」論になりますと、労働者側だけでなく、使用者側も反対意見が多数派になります。なぜかというと、やはり解雇裁判という大きな仕事がなくなることを懸念している可能性もあるからでしょう。そのような考え方こそ、既得権益を守る姿勢にほかならないと筆者は考えます。
社会的に見ても、ミスマッチ雇用が緩和され、人材の流動性が高まることにより、成長産業への人材流入が起きる可能性があります。大企業ではミスマッチ人材であったが、移籍先では頼りにされるというケースも数多く生まれてくるでしょう。これは今後の日本が目指すべき方向性と合致しているのではないでしょうか。
「雇用する」ことのインセンティブを整える必要がある
ただし、課題もあります。解雇の金銭解決だけですべてがうまくいくわけではありません。社会保障としての失業保険制度、職業訓練によるスキルアップの拡充も併せて必要です。また、何より、解雇金支払いの実効性を確保しなければなりません。金銭が支払われない解雇が横行したのでは、今と何も変わりません。行政による取締りを一層強化すべきでしょう。
さらに、解雇論のみならず、「雇用する」ことのインセンティブを整える必要があります。海外の事例ですと、イタリアでは解雇の金銭解決を導入した際、社会保険制度もセットで変えました(参照:「解雇の金銭解決」が奏効したイタリアの実情)。新規採用や雇用継続により、助成金の支給や社会保障費の会社負担分免除のインセンティブを与え、逆に解雇の場合はこれらを増額するなど、安易な解雇はかえって損をするという税制・社会保険制度を構築するのです。労働法のみならず、他の制度との関連で安易な解雇は経済合理性がないと判断するような法制にすることが重要でしょう。金銭解雇は乱発すべきではなく、一部の深刻なミスマッチに限るべきだということを制度的に明示すべきなのです。
今の裁判所に頼った解決制度だけでは、スピード感に欠け、手間もかかってしまうため、結果として泣き寝入りを放置した状態になっています。また、われわれ弁護士も、「仕事が少なくなって困る」というポジショントークをすることは、あってはならないと自戒を込めて述べたいと思います。働き方改革の下、労働法制も大きく変わろうとしています。社会全体として、どのような労働法であるべきか。既得権保護の論調に惑わされていないか、自らの頭で真剣に考えるべき時は今だと考えます。
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