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〈ショパンコンクール〉カワイのピアノ開発者と調律師が「極限のコンクール舞台裏」を吐露、誕生から26年「シゲルカワイ」躍進までの紆余曲折

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ピアノメーカーはコンクールを舞台裏で支えている(提供:浜松国際ピアノコンクール)

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近年、国際的なピアノコンクールの舞台で存在感を増しているのが、河合楽器製作所(以下、カワイ)のグランドピアノ最上位シリーズ「Shigeru Kawai(シゲルカワイ)」。シリーズの頂点となるのが、最高級フルコンサートピアノ「SK-EX」だ。
カワイは、1927年に創業者・河合小市がヤマハから独立して設立した老舗メーカー。その精神を受け継ぎ、2代目社長・河合滋の名を冠して1999年に誕生したのが「シゲルカワイ」シリーズである。
“原点回帰のピアノ”を掲げる「シゲルカワイ」。開発責任者の阿部岐令所長と調律師・大久保英質氏が、極限の現場とそこに込めた信念を語った。

――ピアノの台数では日本勢のシェアが圧倒的である一方、フルコンサートピアノの世界では、スタインウェイ&サンズが極めて高いシェアを占める構造にあります。

大久保:スタインウェイは創業が早く、日本のメーカーは後発だった。カワイも創業こそ早かったが、本格的に世界市場へ進出したのは戦後。復興の中で世界各地にホールが次々と新設された時代、そこに導入されたのはスタインウェイであり、われわれはその後に参入したという経緯がある。

阿部:スタインウェイがすばらしいピアノであることは間違いない。しかし「日本製が劣るから今の状況がある」ということは決してない。

ピアノは寿命が長く、歴史や文化と深く結びついているため、そう簡単に勢力図は変わらない。コンクールという場は、メーカーの実力や努力を多くの人に伝えるには絶好の機会であり、注目度と影響力は大きい。

極限の状態で音を整える

――調律師は、コンクールの土壇場でどこまでピアノをコントロールできるものなのでしょうか?

大久保:設計者が図面を描き、研究開発者や木工の職人たちがその設計思想を具現化していく。この段階で、ピアノのポテンシャルの99%は、すでに決まっている。

調律師の役割は、残る1%をいかに100%に近づけるかにある。調律師の手でピアノそのものを作り替えることはできない。極限の状態で、わずかでも音の方向性や響きを整え、100を101、102にできるかどうかにある。

阿部:コンクールは各社とも、ピアノとしてはすでに100点満点級の楽器を持ち込んでくるので、わずか1点、2点をどう積み上げるかという世界。紙一重の差が結果として大きな差になる。大久保は今、謙遜しているけれど、そこにノウハウや経験が詰まっている。

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