日本の「知識偏重教育」がオランダに学ぶこと 乙武洋匡が現地で触れた多様性を育む仕掛け

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まずは、石原さんのご長女が在籍する低学年グループを見学させていただくことにした。子どもたちと保護者たちが一緒に歌をうたい、ハグをしてお別れ。そして保護者たちが帰ると、日本でいう「朝の会」が始まる。これはサークル対話とも呼ばれるもので、イエナプラン教育でも最も大切にされている時間のひとつだ。子どもたちが円を描くように座る。教師もその円に加わる。とても小さな、それこそささやくような声で、子どもたちと教師が何かを話し合っている。

いったい、どんなことを話しているのか。解説を求めようと石原さんのほうを振り返ると、石原さんは教室から離れるように後ずさりして、私にもそちらへ移動するように促した。そうして石原さんも声を潜め、彼らがどんなことをしているのかを伝えてくれた。

まるで家族のように、互いを理解し合う

「昨日どんなことがあったとか、今日はどんな気持ちなのかとか、そんなことを共有しているんです。それが終わると、先生が今日の予定を話します」

この異年齢集団が「ファミリーグループ」と呼ばれる理由がわかった気がした。まるで家族のように、互いを理解し合う。尊重する。そのためには、昨日どんなことがあったのか、今日はどんな感情でいるのかを共有しておく必要がある。もちろん、無理に話す必要はない。話したい子だけが手を挙げ、口を開く。ほかの子も、教師も、黙ってその子の話に耳を傾けるのだ。

たとえ誰かが間違えても、それを笑ったりしない

引っ込み思案の子は、1年間、ずっと聞き役に徹することになるのだろうか。

「もちろん、そういう子もいるのかもしれません。ただ、うちの娘に限って言えば、この学校に来るまでは、とても人前で自分から話すような子ではなかったんですね。ところが、こちらに来てからというもの、先生の問いかけに真っ先に手を挙げるような子になって。これには親の私たちもビックリしました」

日本でも『教室はまちがうところだ』(子どもの未来社)という絵本が人気を得ている。特に低学年の教室によく置かれているのを目にする。子どもは、間違いを恐れる。もっと言えば、間違いを笑われることを恐れる。だから、教師は「間違えてもいいんだよ」というメッセージを伝えていく必要があるし、たとえ誰かが間違えても、それを笑ったりしないクラスづくりが求められる。

そうした環境さえ整えば、子どもは自然と発言していくようになる。誰からも否定されず、静かに耳を傾けてもらえる環境なら、おのずと「自分の話を聞いてほしい」「私の考えを知ってほしい」という気持ちになる。私も、教員時代に学級経営をするうえで最も心掛けていたことのひとつだった。

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