質屋アプリ「CASH」が狙いを外した残念な理由 初日に事業中断、斬新ながら詰めが甘すぎた
アプリの手軽さと情報弱者へのターゲティングは場合によってかなり悪辣な組み合わせになりますから、金融庁が黙っていても、消費者庁から何か言われた可能性はあるように思います。
しかしながら、実際のビジネスは恐らく彼らが想定した動きにはなりませんでした。端的には雑な審査を行っていた買い取り判断について「査定以下の価値しかないもの」を出品しておカネをせしめるユーザーが激増したのです。私は「えげつない経営者」を想定して本サービスを検討しましたが、実際にはユーザーのえげつなさに経営側が敗北してしまった、と言えるでしょう。
中には「ウソの写真」で2万円をせしめたような人もいるようですが、これは「一見売るように見せて売るつもりがないモノの代金をせしめる」という意味で詐欺に当たりそうですし、刑事罰の対象にもなりうるので、ここではそうしたケースを除外して合法的な事例を見てみましょう。
10個199円のヘアゴムが「1万円」に
私が最も印象的だと感じたのは、H&Mのヘアゴム(10個199円)をバラで売り、一つ「1000円」の査定が出たというブログでした。このユーザーは、199円のヘアゴム10個を1万円に換金し、手数料を除いた9750円を手にしています。「壊れたiPhoneに2万円の査定がついた」というようなネット上の情報も目にしました。
CASHが支払う3.6億円の内訳がどんな中身なのかが不明ですが、このヘアゴムのようなものが大量に届けられ、現金が出て行っているのならCASHにとっては一日にして壊滅的な打撃が発生していることにもなりえます。
この結果をして「ユーザーに悪人が多すぎたから性善説ではやれなかった」というような説明をする人もいるようですが、私個人の感想としては、あまりに査定システムが雑です。多額の資金を投入し、多くの専門家が関わっていながら、こんなレベルでどうしてローンチしてしまったのか、なぜベータテストをしなかったのも疑問です。
CASHが法律に反しない限り、その隙間を探して質屋ならぬ質屋を開くことが許されるように、またユーザーもルールの範囲内なら、買い取り査定の隙間を探して、ヘアゴムを1000円で買い取らせることが許されるのです。
今回、CASHの運営元であるバンクは酷い目にあったのかもしれません。それを見て「胡散臭いことをやるやつはこうなるんだよ」と溜飲を下げている人がいるかもしれません。ただ、法的な側面、ビジネスのスキームを見るならば、CASHは質と貸金という大きな政府の規制を巧妙にかわし(全くノーリスクでないにせよ)、審査のコストを貸し倒れコストに吸収させるという斬新性で世に勝負を挑んだサービスという見方もできます。
惜しむらくは、企画レベルでは優れていても、その実行段階における「審査システム」の出来に難がありすぎた、つまり、「詰めが甘すぎた」ということになるでしょうか。
CASHのウェブサイトには日本を代表する名門の法律事務所が顧問として記載されていたものの、サービス停止と前後してその表示が消されているという事実がありました。同事務所がCASHとどの程度関わっていたかは不明ですが、彼らにとってみても、法的側面と無関係な査定システム部分に起因するサービス停止にはガッカリだったのかもしれません。
私は古い価値観に縛られてこうしたサービスの芽を摘むべきとは思いません。CASHの経営陣が、本サービスを見直して再度勝負をかけるのか、このサービスは残念ながら終了するのか、まだ分かりません。ただ、いつ誰が勝負をかけるとしても、企業の社会的なありかたをしっかりと考え、情報弱者からモノを買い叩いて利潤を吸いあげるような仕組みに頼らず、長く社会の中で利益を追求してほしい、と願うのみです。
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