質屋アプリ「CASH」が狙いを外した残念な理由 初日に事業中断、斬新ながら詰めが甘すぎた

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では、「貸金業」に当たるのでしょうか。貸金業の登録なしに貸金業を営めば「貸金業法」違反の可能性があり、「利息」をとっているということになれば、「出資法」違反の問題にもなりえます。

端的には、利用規約第12条によれば、売買は「目的物の買取価格について利用者がこれを承諾したとき」に成立することになっています。

1項 乙は、本サービスを利用して、乙の所有物を甲に売り渡そうとする場合、当該所有物の写真の甲に対する提供とともに、本サービスのアプリケーションを利用した甲所定の手続により、甲に目的物の売渡しを申し込むものとします
2項 甲は、前項に基づき乙から申込みを受けた目的物について査定を行い、当該目的物の買取価格(消費税込。以下同じ。)を表示します。乙がこれを承諾した場合には、乙の承諾の時をもって、甲と乙との間で当該目的物にかかる本売買契約が成立するものとします

買い取り代金の返済は約束していない

という記載がそれですが、これを見る限り、別に買い取り代金を返済する約束もしていません。

ここで貸金とはどういう場合をいうのかという点が問題になってきます。この点、民法は第587条でこう規定します。「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」。

キモとなるのは「返還することを約して」という記載です。CASHは単なる法を潜脱した金融サービスなのでしょうか。ネット上にはそうした厳しい意見が散見されることも確かです。それについては現状サービスが行われていないので実態を確認することができないのですが、上記のように質や貸金と比較してみると、色々と工夫がされていることが分かります。

これに対して、「法律を巧妙に潜り抜けてうまいこと金融業をやろうとしている」という非難も見られます。ただ、「法律に触れない形でうまくやっている」だけでは、彼らを正当に責めることもまたできません。

私はCASHに新しさを感じた点がいくつかありますが、その最たるものは「ノールック少額融資」とされている手法です。過去の金融は、借主、あるいは担保物の審査に相当なコストをかけてきました。

それは貸し倒れを防ぐためのコストであり、その結果として「①審査コストが利率に跳ね返る」「②それなりに高額な融資でないとビジネスとして成立しない」という2点が挙げられます。一方で、世間には「今すぐ」「それほど多額ではない」おカネが欲しい、という需要が渦を巻いています。一つ一つ小さいその需要を掘り起こすことに成功すれば、相当なマーケットになりそうです。

CASHはそこを突きに行ったサービスと考えられます。そしてCASHが考えたコストダウン手法は「ロクに審査しない」という点でした。審査はごく簡単な形式的なものにする(買取物品のブランド名と品物の種類、写真のみ)ことで、貸し倒れや担保割れについても一定程度のリスクを受け入れる、そのリスクから発生するコストは審査コストの軽減の中で吸収するというものです。

次ページ非常に新しいサービスだが……
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