質屋アプリ「CASH」が狙いを外した残念な理由 初日に事業中断、斬新ながら詰めが甘すぎた
これはなかなか出てくる発想ではありません。非常に新しい、勇敢なサービスという見方もできます。ただし、私が最もえげつない経営者だった場合を想像してみましょう。
買い取り価格がどんな品でも最大2万円であり、2カ月後に15パーセントの利息ではなく、キャンセル料を取れるという点に私は注目しました。
いままで「店舗」で行っていたことを「アプリ」で行えるというサービスはたくさんあります。ゲームセンターやファミコンソフトショップと課金ゲームを例に取ればわかりやすいでしょう。
「店舗」と「アプリ」の圧倒的な差は「手軽さ」と「現実感のなさ」です。わざわざゲームショップに行って1万円札を財布から出すとき、大きな心理的ハードルがあるものの、スマホのボタンで500円のガチャを20回「課金」することは簡単にできてしまう、というような心理的ハードルの高低がその一つの理由になっていると思われます。
落ち着いて考える時間も機会もなく、高額な消費をしてしまうわけです。これについては社会問題にもなり、色々な方向での規制が考えられています。
ひるがえって質屋についてはどうでしょうか。おカネがないのは悪いことでもなんでもないのですが、つらいことです。生活費が足りず、質屋に大事にしていたバッグや時計を持っていくとき、多くの人はとても苦しい判断を迫られ、身を隠すようにお店に向かうことでしょう。
質屋に抵抗はあるがおカネが必要な人に便利?
「アプリ」で写真を撮るだけで、おカネを引き出せるとしたら。しかもそのモノは手元にあるので、そんなにつらい思いをしなくても良さそうです。質屋に行くのはどうしても抵抗がある、という人にとっては便利なサービスになるかもしれません。
私がえげつない経営者なら、そこの心理を突きます。「どうせ送らないで済むなら」たとえ5万円や10万円の価値があるブランド品でも2万円でキャッシュに替えておいていいや、という判断をする層。「経済観念の乏しい層」「情報弱者」と呼ぶこともできる、これらの利用者から、CASHは居ながらにして5万円や10万円の価値があるブランド品を上限である2万円で「買いたたける」ことになります。
しかし、2か月後、「ライトな判断をする層」も、「自分の大事なブランド品をCASHに取られてしまうかも!」という事実に遅ればせながら気づきます。本当はすでに売買契約が終了して引き渡しの猶予期間があるだけです。そこで2万円+15パーセント=2万3000円が用意できないユーザーはブランド品を失います。用意できたとしても3000円分の利息、ではなくキャンセル料を取られることになります。
2カ月サイクルで15パーセントというキャンセル料は、利息として考えれば単利で90%、複利なら年100%を優に超える極めて高額な利率になります。情報弱者であれば、その利率の本質に気付かないケースも少なくないかもしれません。
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