バッハ自身もコーヒーが大好きだったことは、遺品としてコーヒー用の高級食器や銀製のポットなどが多数遺されていたことからも明らかで、そのコーヒー好きが高じて書き上げられたのが、「コーヒーカンタータ」なのだから実にわかりやすい。当時ライプツィヒでは、コーヒーを飲みすぎて中毒症状になる人が続出し、コーヒー依存症が社会問題になっていたという。
さらには、外貨流出を防ぐための国策として大量消費される輸入品であるコーヒーを禁じた「コーヒー禁止令」まで出されたことがあるというのだから大変な時代だ。その時代背景をネタに作曲された「コーヒーカンタータ」の正式名称は「おしゃべりはやめて、お静かに」。作品の内容は、はやりのコーヒーにウツツをぬかす娘と、それが気に入らずにあの手この手で娘のコーヒー熱を冷まそうとする父親とのやり取りを描いたドタバタ喜劇だ。
冒頭に掲げたコーヒー讃歌がなんとも楽しい「コーヒーカンタータ」を披露した当時、バッハはすでに50歳。今の50歳とはわけが違うだけに、ライブハウスならぬコーヒーハウスに出かけてライブ演奏を展開するバッハのバイタリティと旺盛な好奇心には頭が下がる。
ベートーヴェンのコーヒー豆は60粒
さて、コーヒー好きの作曲家といえばバッハの他にはベートーヴェンが有名だ。なにしろ毎回豆の数を数えて最高においしいコーヒーをいれていたと伝えられているのだからこれはかなり本格的。ベートーヴェンを訪問したピアノ教師フリードリヒ・シュタルケは、「ベートーヴェンは朝食用のコーヒーをガラスの器具で準備していたのです。彼はコーヒーを健康のために欠くことのできない滋養飲料と考えているようで、毎回60粒のコーヒー豆をカップ1杯ぶんとしてきっちり数えていれているのです」などと書き記している。
同じようにベートーヴェンの生活ぶりを間近で垣間見ていた弟子のシントラーによれば、「ベートーヴェンはコーヒー1杯のために豆60粒を入れることと決めていて、いつも数え間違えないように気をつけていました」などと書きのこしている。
これを読む限り、“ベートーヴェンのコーヒー豆60粒説”は本当なのだろうと想像できる。それにしてもかなり濃いコーヒーになりそうだ、などと考えながら、音楽祭で披露されたオペラ仕立てのすてきな「コーヒーカンタータ」を聴き終わった後は、当然コーヒーが飲みたくなる。
それを見越してなのだろう、会場ロビーでは「スターバックス」がコーヒーの試飲会を展開しているのだから嬉しい限り。このタイミングでのコラボレーションは絶妙だ。次回はバッハの時代同様、ぜひコーヒーハウスでのライブ体験に期待したい。
ああ、コーヒーはなんておいしいのでしょう。1000回のキスよりもすばらしく、マスカット・ワインよりも甘い!?
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