コーヒーとクラシック音楽の深すぎる関係 18世紀はコーヒーハウスがライブ会場だった

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舞台となるのは1730年代のドイツ・ライプツィヒ。ここでは当時コーヒーを飲むことが大流行していて、人々は家庭で飲むばかりでなく街のコーヒーハウスに出かけてコーヒーを楽しむことが日常茶飯事。そのため街に存在する8軒のコーヒーハウスは大繁盛だったという。

しかも市民の社交の場としてコーヒーハウスが重要な役割を担っていたというのも意味深だ。するとそこからコーヒーだけではなく音楽を提供する店が出始めたのだ。これはまさに今に続くライブハウスのはしりに違いない。そのなかの1軒が、今回のテーマであり、公演タイトルにもなっている「ツィマーマンのコーヒーハウス」だ。

そして、ここが重要なのだが、この店で定期的にライブ演奏を行っていたのが、“音楽の父”とたたえられるバッハだったのだ。当時のバッハがどんな仕事をしていたのかといえば、ライプツィヒの聖トーマス教会のカントル(教会音楽家)として、「教会カンタータ」などを中心とした教会のための音楽(宗教音楽)をせっせと作曲していた時期にあたる。

その忙しい仕事の合間にツィマーマンのコーヒーハウスに出没しては、ライブ活動を繰り広げてコーヒーと音楽を愛する人々から大喝采を浴びていたというのだから面白い。これこそ音楽室の肖像画に描かれた厳しいバッハのイメージがガラリと変わる瞬間だ。

チェンバロ協奏曲や世俗カンタータがライブの定番

そのバッハが率いていたバンドならぬアンサンブルは、コレギウム・ムジクムと呼ばれる先鋭集団。これは、バッハの先輩に当たる大作曲家ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681―1767)が創設した市民や学生によって構成される民間の音楽愛好団体で、まさに今に至るオーケストラの原点とも言える存在だ。このアンサンブルを率いてコーヒーハウスに乗り込んだバッハは、いったいどんな曲を演奏していたのだろう。

もちろんここでは「教会カンタータ」などを演奏するはずもなく、一般の聴衆に喜ばれる「チェンバロ協奏曲」や、宗教色のない「世俗カンタータ」などを数多く作曲してはコーヒーハウスで披露していたらしい。今回「調布国際音楽祭」で、「コーヒーカンタータ」の前に「3台のチェンバロのための協奏曲」2曲が披露されたのはその歴史的事実の裏付けだ。

ちなみに名高い「チェンバロ協奏曲第1番BWV1052 」の第1楽章に流れるカデンツァは、サカナクションの『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』の中に登場するバッハのメロディであることを思えば、コーヒーハウスで大喝采を浴びながらチェンバロのカデンツァを華麗に演奏するバッハの姿が目に浮かぶようでほほ笑ましい。

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