ニセ健康情報を摘発!英政府メディアの威力 日本人も使える「騙されない」9の要点とは?

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メーカーから、プレスリリースも出ていました。それによると、45~68歳の成人男女30人(男性15人、女性15人)に、高カカオチョコレートを4週間摂取してもらい、その前後の脳の健康度を「大脳皮質の量」「神経線維の質」という2つの観点から評価したそうです。その結果、大脳皮質の量が増えており、統計的な有意差があった。よって、「学習機能を高める(脳の若返り)可能性があることを確認しました」と伝えています。

これを、NHSの注意ポイントをもとに検証してみると、あれ?と思う点がいくつかあります。

まず、学術論文として発表されていません。学会どころか、研究した当事者たちが「すごい結果が出た」と発表しているだけです。実験設計等が妥当で、意味のある結果が出ているのかについて、第三者の評価を受けていません。

それに、対照群のある試験ではありません。被験者が継続摂取する前と後に、大脳皮質の量を測定しています。高カカオチョコレートを食べ続けた4週の間に、食生活や運動量等の変化がなかったのか不明です。これでは、差があったとしても、本当に高カカオチョコレートのおかげなのかどうか、わかりません。

そして、大脳皮質の量が、どうして脳の健康度の指標になるのか、その量が増えたらなぜ、学習機能を高めると言えるのか、妥当性を示す根拠、論文が示されていません。妥当性を評価した論文が当然、すでに発表されているのだろう、と思い学術論文のデータベースを探したのですが、出てきませんでした。

さらに、研究対象者は30人ととても少なく、しかも、「効く」という結果が出たほうがお得になるお菓子メーカーが主体となって行った研究結果です。

NHSのチェックポイントのほとんどで×印がついてしまう内容です。もし、イギリスの新聞が「チョコレートに若返り効果?」と報じたら、NHSの猛批判を浴びること、間違いなしでしょう。ところがなんとこの発表、お菓子メーカーだけでなく、内閣府の参事官や理化学研究所の幹部も出席し、意気揚々と記者会見したようです。

日本の何とも「お寒い状況」

これが日本の非常にお寒い現状。インターネットのキュレーションメディアなどが間違った情報をバンバン流すのは、彼らの能力不足もありますが、やっぱり健康情報に甘い国や社会を反映しているのだ、と私は思います。キュレーションメディアを非難するのは、トカゲのしっぽ切りのようにしか思えません。

『効かない健康食品 危ない自然・天然』(光文社)。上の画像をクリックすると、アマゾンのサイトにリンクします

ではどうする? 日本の場合には、出典が学術論文なのか学会発表なのかすら説明しない新聞記事やテレビニュースが目立ちます。インターネット情報はなおのことです。出典は論文なのか、専門家のインタビュー記事であっても根拠がきちんと示されているか。この点を検討するだけでも、信用に値しない情報、ニュースの数々をばっさりふるい落とすことができます。

さらに、食品の情報の場合には、体に取り込むのはどれくらいか、という「量」の問題に触れない記事も、たいてい×。人の試験でないものもダメ。

どうか、信用に値しない情報に振り回されないで。広告も、体験談ではなく、学術的な根拠があるのかどうかを確認して。情報があなたの体をむしばむことがないように気をつけてください。

松永 和紀 科学ジャーナリスト

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まつなが わき / Waki Matsunaga

1963年長崎市生まれの東京育ち。京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社の記者として10年勤めた後に退職し、科学ジャーナリストとして活動を開始。2011年に、科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体「Food Communication Compass」(略称フーコム)を設立。著書に『メディア・バイアス――あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)、『お母さんのための「食の安全」教室』(女子栄養大学出版部)などがある。

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