スペイン最高のシェフが「超僻地」を好む理由 世界最先端のビジネスは辺境で創られる
確かに、辺境に注目しても、巨万の富は得られないかもしれません。しかし、彼らはそこで地域の特色を生かしたベンチャーや社会事業を起こし、地域循環型の経済を追求しようとしているのです。従来型の資本主義に代わる「オルタナティブ」を実践しようという刺激的な活動を行っている若者がたくさんいるのです。
辺境を重視するのは、若者が起こす小さなベンチャー企業だけではありません。世界的な先進企業もそうです。たとえばエナジードリンクで日本でもすっかり有名になったレッドブルの本社は、オーストリア・ザルツブルクの中心部から約20キロメートルも離れたフシュル湖のほとりにあります。都会の喧噪から離れた非常に風光明媚なところです。
大都市のオフィスビルの中では、もはや新しいコンセプトは生まれない。レッドブルだけではありません。「自由な発想は辺境にいないと、生まれてこない」――そんな信念から、欧米では辺境に本社や研究機関を置く世界的企業は枚挙にいとまがないのです。
「革命的な冷凍食企業」もスペインの僻地で生まれた
他にも辺境で生まれた独創的な企業の例をご紹介しましょう。北スペインの辺境にあり、本格グルメ料理を大量生産できる国際的なケータリング企業「デ・ポンティーゴ・マヘール・クックス社」です。
同社はスペインの内陸部・ナバーラ州トゥデラ郊外のシントゥルエニゴ村に「マヘール」という小さなオーベルジュ(ホテル付きレストラン)があります。ここのオーナーシェフは、エンリケ・マルティネス氏といいます。祖父の代からのこの店を引き継いだ彼が、会社を起こし、いまスペインのガストロノミーの世界(美食界、文化と料理の関係を科学的に考察すること)に革命的な変化をもたらしているのです。
もともと、このオーベルジュ自体は村人が結婚式を挙げるのに利用するようなささやかなものでしたが、オーナーシェフのマルティネス氏は腕のいいシェフであり、スペイン料理界の第一人者として知る人ぞ知る存在でした。しかし研究熱心な彼の活動は、「単なる有名料理人」という枠には収まりませんでした。
彼は日々料理を研究する中で、こう考えました。
「私が住んでいるナバーラ州は、食材に恵まれている。だがどんな食材にも旬がある。食材を冷凍してすばらしい旬の味を保持できれば、年間を通じて最高においしい食事を提供できるはずだ」
彼の地元はタマネギの有名な産地でした。しかし、確かに旬の時期というのは、わずか数週間です。その時期を過ぎれば、やはり食材の味は落ちていきます。そこで旬の時期の食材を冷凍保存することを考えたのです。
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