日本男児よ、「昭和の経営者」の心意気を学べ 「信長の棺」の人気作家が現代の経営者に提言

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それから、第1章のオリエンタルカーペットも忘れられない。戦前、あの二・二六事件の騒ぎがあった頃、遊郭に売られていく山形の女の子たちを救おうとして、絨毯(じゅうたん)なんて当時の人がほとんど知らない商品をつくろうと決意するんです。その動機の純粋さが戦後にも受け継がれていて、日本流経営のよさを典型的に表していました。

今回、久々に当時を思い起こしてみて、「昭和の経営者たちには謙虚さがあったんだな」と痛感したんですよ。あの本の中では、経営者の心があふれているんです。

地域貢献や従業員との共生を信念にする社長、あるいは「社員にボーナスを12カ月分あげたい」とか、「弱者を助けたい」とか、素直な気持ちを口にする人もいました。経営が心をエネルギーとして成り立っていたんですね。だから、僕はあの頃の中小企業が大好きなんです。

歴史小説とビジネス書の共通点とは

――ところで、先生は歴史小説家のイメージが強いのですが、かつてビジネス書を書いておられたことを初めて知って、驚いている読者も多いと思います。

当時は主に、企業分析や経営者列伝などを書いていました。僕は大学生の頃から小説家になるつもりだったんです。その練習として、ビジネス書を書いていたんですね。だから、トレーニングというつもりがあったんですよ。

ビジネス書と歴史小説とはかなり違うと思われているようですが、僕にとってはそんなことはないんです。経営というのは歴史的に見なければいけないと思っていましたから、経営の中の歴史をつねに意識してビジネス書を書いていたんですね。

「経営に歴史あり」というスタンスでビジネス書を書いていたから、歴史小説を書きだ出したときも、すんなりと執筆に入れたんですよ。

――歴史という共通項があったわけですね。すると、ビジネス書の執筆で鍛えられた「経営の歴史」を見る目は、小説を書くことにどのような形で活かされているのでしょう?

僕の場合、テーマを分析するときに、いつも「なぜなんだ」と考えるんですよ。これはビジネス書でも歴史小説でも共通したスタンスなんです。

経営分析だったら、たとえば「なぜ減益になったんだ」と考えることから企業の歴史を遡(さかのぼ)ります。小説の場合でも、たとえば『信長の棺』(文春文庫)のときには、「なぜ信長の遺体がなかったのか」と考えるところから、執筆が始まったんですね。『宮本武蔵』(新潮文庫)のときは、「なぜ巌流島に2時間も遅れたのか」というところからスタートしました。

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