「本当に豊かな教育」は民間学童にあり?

佐藤嘉高さんに教育論をぶつけてみよう

3年目から徐々に子どもが増え、現在は乳幼児も含めて40人ほどの子どもを預かっています。午前中は小学生がいないので、保育士さんを雇って乳幼児を預かることで経営がずいぶん助かっています。

昨年から今年にかけて、大手が5社も名古屋に参入してきました。うちに視察に来た会社もありますよ。競合他社になるわけですが、1社で細々とやっていても民間学童が社会に浸透しないので、視察は歓迎しています。

今、僕が子どもたちを迎えに行っている小学校のひとつには、うちも含めて3社も入っています。その学校の学童保育は子どもを集めるのが大変だと思いますね。

ロールプレイと呼ばれる学習

――学童保育とは何が違うのですか?

うちの場合、まずはお母さんたちの負担がゼロです。教育内容はお任せで大丈夫で、学校内まで子どもたちを迎えに行き、自宅まで送り届けます。手作りの食事も出しますし、宿題も見てあげて、習字やそろばん、アートなどのお稽古事もきちっとやります。

大きな特色は「ロールプレイ」と呼んでいる学習です。月ごとに「ヤマト運輸の仕組み」「介助犬の訓練」などのテーマを決めて、子どもたちから引き出したアイデアに沿って、調べ物や発表を行います。いわゆる学力とは異なる、社会に出て通用する力を育んでほしいと思っているからです。

大手の雇われ教室長では、うちのまねはできないでしょう。子どもたちの将来まで考えて真剣に教育していますから。うちにいる時間では僕が父親替わりだと思っているので、しかることも少なくありません。子どもたちにとってはある程度「怖い先生」です。

最近の小学校は子どもたちを猫かわいがりしています。名前も「さん」か「ちゃん」づけ。でも、子どもと近しくなるには、呼び捨てのほうがいいと僕は思っています。

――料金が高そうですね。

学童保育の場合、週5日18時~19時まで預けて2万円前後です。うちは20時まで預けて3万円+送迎費。送迎は1回500円です。年間だと平均60万円ぐらいかかります。これでも東京に比べれば半額ですよ。

うちのような民間学童に子どもを預ける親の層が、今はどこを利用しているか。学習塾です。特に名古屋の中心部に住む親たちの目線は、受験にしか向かっていません。でも、いわゆる「いい学校」に行けば、いい会社に入って、いい結婚をして、いい子育てができるのでしょうか。絶対に違います。子どもたちが自分でやりたいことを見つけて、それに合った学校を選べる力を養うことが必要なのです。

学習塾で行っているような「先取り学習」は、子どもの学ぶ意欲を阻害すると感じています。学校の授業で「ああ、なるほど!」と感動することがなく、「そんなの知っているよ」と教員をなめるようになってしまうからです。高学年になるにつれて学力が下がっていきます。だからうちでは先取り学習や受験テクニックを教えるようなことはしていません。

――ちょっと反論していいですか。僕はいわゆるガリ勉タイプで、中学校と高校ではひたすら勉強をして、偏差値と学費と実家からの距離だけで大学を選びました。成長企業だからという理由で就職した会社はすぐに辞めることになり、「自分が本当にやりたいこと」がわかってきたのは30歳を過ぎてからです。それでも大学生活で得たものは無駄ではなかったと思っています。

僕は浪人までして入った大学で目標を見つけることができず、1カ月で中退してしまいました。大学に入ること自体を目標にしちゃっていたからです。親不孝者ですよね……。

だからといって、自分の過去を否定するつもりはありません。ITや教育に関しては社会に出てから必死に勉強しました。大人になってから「やりたいこと」に気づいても遅くはないと思います。いつまでも気づかない人もいますけれどね。

ただし、僕は自分と同じように目標を設定できない子どもを、これからも育てたいとは思いません。社会の仕組みを伝えながら、(子どもたちが自分の道を決めていくプロセスの)フォローをしてあげるのが大人の役割だと思っています。

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