ユナイテッド航空、ヤバすぎ危機対応の顛末 内向き論理を持ち込んではダメなのに…

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・対応が遅い

・謝罪がない

・自分たちの行為の正当化

・内向き視点

・内部向け発信内容が外部に流出

・責任転嫁

特に、危機的状況が起きると、どうしても企業は自分たちが犠牲者である、という思い込み、希望的観測が先走る。かつて、JR西日本の福知山線の事故でも、結果的に運転士の過失であったが、JR側は「置き石の可能性」を言及し、「責任逃れ」と厳しく批判された。危機管理においては、「思い込み」対応が最悪の結果を生む。

コミュ力で社内の信頼を勝ち取ったが…

さらに驚くべきことがある。ムニョス氏はこの事件の1カ月ほど前に、PRの業界誌から「コミュニケーター・オブ・ザ・イヤー」として表彰されているのだ。ワシントンポスト紙などによると、ムニョス氏は汚職騒ぎで退任した前職のCEOの後、2015年に就任。もともと、豊かではない家庭で苦労して育った経験を持ち、地道な努力でアメリカ有数の航空会社トップにまで上り詰めた。就任直後に心臓発作を起こし、休職後、心臓移植によって回復し、復帰した。そんな経歴もあって気取らない徹底した草の根のコミュニケーションによって社員の士気を上げ、結果的にサービスの質を上げることに成功したという。

コミュニケーションに重きを置き、社内の信頼を勝ち取ったわけだが、そうした方針の延長線上で、前述のような極端に従業員寄りのメッセージとなってしまったのだろう。

「コミュニケーションとコミュニケーション戦略はゲーム(試合)の一部ではなく、ゲームそのもの」と言い切り、そこに心血を注いできたCEO。まさに、コミュニケーションによって名を成し、そしてコミュニケーションによって名を失ったのは皮肉としか言いようがない。

岡本 純子 コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師

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おかもと じゅんこ / Junko Okamoto

「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。

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