英国で高視聴率たたき出す「田舎番組」の魔力 長寿番組「カントリーファイル」を支えるのは
もともとは主に農家向けに制作されていた「カントリーファイル」が人気番組に化けたことには、クレーブンをはじめ多くの人々が驚いた。2009年にBBCは、日曜の昼前だった放映時間を夕方のゴールデンタイムに思い切って移した。
放映時間が変わった初回の翌日のことをクレーブンは覚えている。「局から月曜の午前11時に電話がかかってきて、『信じられないだろうけれど、(視聴者数)700万人を達成した』と言われた。オフィスでみんな飛びあがって喜んだ。それからずっとその調子だ」。
今年2月のある回の視聴者数は767万人。ちなみに人気ドラマ「イーストエンダーズ」の過去最高視聴者数は725万人で、BBCの夕方6時のニュースは529万人だ。
視聴者のうち、約半分は都市生活者
英国では「プラネットアース」のような自然を描く番組も人気だが、この国の人々の田舎暮らしへの思い入れは、長寿ラジオドラマ「アーチャーズ」が田園地帯を舞台としていることにも反映されている。
「カントリーファイル」の視聴者のうち、約半分は都市生活者が占めている。クレーブンの言うには、王室のメンバーも見ているという。
「カントリーファイル」は映像作品としての質の高さと、認知症や家庭内暴力といった田舎暮らしの厳しい側面を正面から取り上げてきたことが自慢だ。また、番組のスタイルやテンポも他とはひと味違う。
「多くのテレビ番組は、視聴率を念頭に制作されている」と語るのは「カントリーファイル」のディレクターの1人ニック・スモールだ。「私の思うに、みんなそこで間違うのではないだろうか」。

日曜の晩にソファーに座ってこの番組を見る人々が、手に汗握ったりすることはめったにない。「(番組の流れは)ゆっくりでのんびりしている。『ジョンはこの状況から生きて帰れるか?』なんてナレーションが流れることもない」
私が撮影現場を取材した回も、さまざまな話題を取り上げていた。クレーブンはアーティストのバネッサ・ベル(作家バージニア・ウルフの姉)と恋人のダンカン・グラントが暮らした田舎の屋敷「チャールストン・ハウス」を訪問した。
撮影は、放送の約2週間前に行われる。プロデューサーらによれば、制作費はゴールデンタイムの他の番組に比べればずっと低予算らしい。