役職者を「さん付け」する会社が崩壊するワケ 「理」の世界に「情」を持ち込むべきではない

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当たり前のことです。会社組織というものは「理の世界」です。そこに「情の世界」である家庭や友人関係の感情を持ち込んでしまっては、会社は成長しない。そのことに思い至ったのです。

最初、社員からの抵抗がありました。しかし、先ほどの「なぜ、肩書で呼ぶ必要があるのか。それは、偉いから肩書で呼ぶのではない。責任追及のために肩書で呼ぶのだ」という話を繰り返ししていくうちに、社員はごく自然に「肩書」で呼び合うようになり、そして結果として、業績は、みるみる上昇を続けました。あれよあれよと、私自身が驚くほどに伸び続け、ついには34年間で250億円の売り上げ、利益率もおおむね8%を確保し続けました。

むろん、成長発展のためにさまざまな「情の要素」もふんだんに取り入れ、手を打ちました。ですから、「さん付け」をやめたことだけが「発展の要因」とはいえません。しかし、少なくとも「責任感なき組織」から「責任感ある組織」に大転換したことは確かだということです。

風通しが悪いのは「社長の責任」

冒頭にも申し上げましたが、この「さん付け」を導入しようと考えるきっかけは、経営が厳しくなり、倒産の可能性すら出てきているようなときのようです。そして、曰(いわ)く「このような状況になったのは、社内の風通しが悪いから」と社員が言い出し、部下がそのように叫び出すからです。

社長も上司も、藁(わら)にもすがりたいときですから、「そうかもしれない。やってみよう」ということになります。その後、倒産を免れて低空飛行を続けていれば、「肩書で呼ぶ」という状態には戻しにくいので、漫然と「さん付け」をしている会社も多いことでしょう。

が、本来、「風通しのいい・悪い」は、肩書とは関係ありません。風通しが悪いのは、「社長の責任、上司の姿勢」に尽きます。社長が、方針を明確にして社員を導く。つねに、社員に対して、心のなかで手を合わせる。感謝の気持ちをもって、社員と接する。「頑張っているね、なにか困ってることはないか」と声を掛ける。上司が、部下を激励しながら、ともに仕事に取り組む。部下の話に耳を傾ける。意見を部下に積極的に尋ねる。なにより、「成功は社員、手柄は部下」と思い、感謝する。そして、「失敗は社長である私の責任」「うまくいかなかったのは、上司である私の責任」と思い、社員に、部下に、頭を下げる、お詫びする。

その姿こそ、「社内の風通し」をよくする決め手だと思います。要は、「さん付け」をするより、社長や上司の「意識改革」をしなければならないということです。社長や上司が、謙虚な誇りと責任感をもって、そして、思いを込めて経営に、仕事に取り組めば、おのずと経営は成功し、業績は上がるでしょう。行き詰まった業績も、必ず打開することができるでしょう。

組織の風通しをよくするための「さん付け運動」は、百害あって一利なしということです。ただし、組織内、社内での「さん付け」否定論であって、決して、組織の外や社外における、たとえば飲み会や社員旅行における「さん付け」までを否定しているものではないということを最後に申し述べておきます。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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