個人型確定拠出年金iDeCoを普及させるには? 出足いま一つ、運用商品数めぐり侃々諤々

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商品数の制限を俎上に乗せた厚労省の狙いは「本数を絞ることが目的ではなく、利用者が商品を選びやすくするのが本来の思想」(年金局)。その背景にあるのが、米国での401kに関する研究結果だ。

この研究では、401kへの加入状況を提供商品数ごとに調べた結果、選択可能なファンド数が10本増えるごとに、株式にまったく投資しない人が2.87%増えたほか、それ以外の人たちの株式組み入れ比率が3.28%低下した。つまり、選択できる商品数が多すぎると、利用者は選択を遅らせたり、「選択をしない」という判断を下してしまう傾向があるという。

野村総合研究所が日本国内の1万8000人超を対象に実施したアンケートで、iDeCoに加入する意向がある人のうち、6割が「商品の選択や配分を決めるのは難しいと感じている」という結果が出た。日本でもこうした状況にあることから、商品数の制限は一定の筋が通っていると考えられる。

業者は差別化しにくくなる商品数制限に反対

だが一方で、商品数をたとえば10本に制限すると、定期預金のほかに日本や先進国の株式と債券の投資信託を組み入れてしまうと上限本数に達してしまい、新興国株式などは組み込めなくなってしまう。また、商品数が限られていれば手数料がインデックス型よりも高いアクティブ型の投資信託も選ばれやすくなると考え、意図的にアクティブ型ばかりをラインナップに組み入れる金融機関が出てくる可能性もある。

金融業界からは「仮に10本に制限されるとなれば、商品での差別化が難しくなり、iDeCoそのものの魅力が薄れるおそれがある」「任意加入のiDeCoを強制加入が原則の企業型DCと同列に扱うのはおかしい」といった声が上がる。

厚労省の専門委員会でも、初回の会合で委員の間から慎重な意見が相次いだ。「iDeCoに加入しようとする方がわざわざ商品数が少ない金融機関を選ぶということも考えにくい」「(退職時期ごとに1本ずつ設定される)ターゲットファンドを入れたら、ほかに何も入れられないということが起こりうる」「参入しづらくなり、DCのマーケットがしぼんでしまうのはよくない」といった具合だ。

ただでさえ、加入手続きの煩雑さや利益率の低さに伴う金融機関の消極性がネックとなり、認知度が高まらないのがiDeCoの現状だ。専門委員会は今夏までに結論を出す予定。そこで最適な落としどころを探れるか。来年からは、長期投資による資産形成を促進するための制度として、積み立てNISA(少額投資非課税制度)が始まる。商品数制限の議論いかんでは、iDeCoの存在感がさらに埋没するおそれもある。

猪澤 顕明 東洋経済 記者

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いざわ たかあき / Takaaki Izawa

1979年生まれ。慶應義塾大学卒業後、民放テレビ局の記者を経て、2006年に東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、ニュース編集部などに在籍。2017年に国内のFinTechベンチャーへ移り、経済系Webメディアの編集長として月間PVを就任1年で当初の7倍超に伸ばす。2020年に東洋経済へ復帰、「会社四季報オンライン」編集長に就任。2024年から「東洋経済オンライン」の有料会員ページを担当。

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