――リスクのほうではやはり注目されるのは欧州の政治で、とくに4月から5月にかけてのフランス大統領選ですよね。
伊藤:2月から3月にかけて欧州に行ったんですが、現地のエリートはみんな決選投票で「ルペンは負ける」といいながら、「万が一のリスクは排除できない」ともいっている。
フランスが米国やイギリスと似ていると思うのは、かつては繁栄していたのに、さびれてしまった工業地帯とか、成長から取り残されたと感じる中間層の存在。これはオランダやドイツにはないもの。フランスでも比較的所得水準の低い南部の地域が国民戦線のマリーヌ・ルペン氏の支持基盤になっている。南部の貧しい地域はEUの所得移転の対象になっているので、"親EU"ではあるんですが、「フランス第一主義」的なルペン氏の訴えは心に響くかもしれない。
左派層が最終的にルペンに投票するリスク
ルペン氏の父であるジャン=マリー・ルペン氏が2002年に大統領選に出馬したときには第1回の投票で17%獲得して、決戦投票に進んだが、ほとんど票が伸びなかった。しかし、今回の娘のルペン氏の場合、世論調査では第1回の得票率がだいたい25%で、第2回投票で40%程度まで上がるとされている。かつては手厚かった社会保障が見直されたり、退職年齢が引き上げられたりして、財政緊縮や労働市場改革に不満を抱く左派の支持者の一定割合が、決戦投票に残ると見られる中道のマクロン氏、あるいは右派のフィヨン氏ではなくルペン氏に投票するつもりなのだと思う。
フランスはEUの核となっている国だけに、大統領選をメインシナリオどおりに無事通過できるかどうかはフランスやEU(欧州連合)はもちろん、世界経済やマーケットにとって大きい。直後に行われる議会選挙では国民戦線は勝てないので、ルペン氏が勝ってもEU離脱の国民投票やユーロ離脱の公約を実現することは非常に難しいと思われるんですが。
――ルペン氏が勝つというリスクシナリオが実現した場合にはマーケットはかなり荒れるんでしょうか。
尾河:機関投資家は去年のブレグジットショック、トランプショックと2回経験しているので、ヘッジなどある程度の備えはしているでしょう。
大槻:CDS(クレジットデフォルトスワップ)や国債利回りの拡大を見ると、まさにそれを織り込んでいるという感じですね。フランス国債は外国人の保有比率が高いので、利回りとルペンの支持率は連動している。
尾河:ユーロは売られるし、フランスやEUは大騒ぎになると思うけれど、米国も含めて世界中の株が売られちゃうみたいなリスクオフはそれほど長続きしない。ブレグジットの時も2週間ぐらいだったので。6月の議会選挙をとりあえず見ようとか、だんだん落ち着いてくると思います。