ドイツ人は「沢山の余暇」をどう過ごすのか 10人に3人がスポーツクラブに入る意味とは
メンバーの数は、ドイツ全国で約2800万人。単純計算をすれば、10人のうち3人程度がこうしたスポーツクラブで日常的にスポーツを楽しんでいると言える。ちなみに、ドイツの学校には部活がなく、子どもや若者もクラブでスポーツをするのが一般的だ。
クラブでは選手として頑張っている人もいるが、楽しみや健康が目的の人もかなり多い。さらには、定期的にトレーナーを務める、あるいは催しものの手伝いをするなど、ボランティア活動の場ともなる。そのため、小さな自治体だと、クラブがコミュニティの重要な拠点になっている。また競技によっては10代の若者と中高年が一緒に汗を流すようなこともあり、ここで仕事の名刺の肩書とは別の人間関係ができていることがよくわかる。
こうしたNPOに相当する組織は、スポーツのみならず、文化、環境、政治、教育、社会福祉、趣味の集まりなど多岐に渡り、数も60万以上ある。人口10万人程度の自治体でも700以上あるようなところもある。読者諸氏が住まれている自治体内にどのぐらいNPOがあるのか考えてみると、その多さは理解できるだろう。
退職後、いきなり地域の活動に参加するのは難しい
日本を見てみると、定年退職後に地元で社会的な活動をしたいと、NPOの参加を考える人も増えた。しかし長距離通勤・長時間労働で、現役時代に地元と関わる機会がほとんどなかった人にとっては、大きな挑戦だ。また、現役時代から仕事をしつつNPO活動をしようとすると、活動時間を捻出するのに、苦労している人も多いと思う。
一方、可処分時間の多いドイツの場合は、現役時代から、地元の社会的な組織に出入りしやすい。「個人の楽しみ」「社会的意味のある仕事をしたい」など、動機はさまざまだが、基本的に自由意志・自主決定による参加だ。これは、日本の自治会のような、「住んでいるから入るのが義務」という強制力が伴った地縁組織とはまったく異質のものだ。
仕事とは別の人間関係が増えると、地域社会に重層的な人間関係ができてくる。一見、これは日本の「絆」のようだが、もっとあっさりしている。「絆」は地縁・血縁がモデルになった親密度の高い関係が想定されているが、自由意志・自主決定に基づき幾重にもできた人間関係は「信頼の網目」と呼ぶくらいが丁度いい。
信頼の網目は地方自治にとってとても重要だ。「自治」で大切なことは、自由な議論を保証することだが、同時に「議論の起こりやすさ」も大切だ。普段から「なんとなく顔見知り」という程度の軽い信頼関係ができていると、議論も始まりやすい。こういう地域は、安定性とダイナミズムが同居する「強い社会」を形づくっていると言っても良い。
地域をどうつくっていくかというときに、近年の日本は「まちづくり」という言葉をとおして、草の根型デモクラシーでコミュニティをつくる方向性を獲得した側面がある(「ドイツには『まちづくり』という言葉などない」)。それに対してドイツにはそういう言葉が必要ない。なぜならば、信頼の網目が議論の起こりやすい空気をつくり出しており、それらがなだらかに地方政治とつながっているからだ。
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