警察とマスコミ、偽らざる「不適切な」関係 なぜ記者クラブは警察批判ができないのか

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ある全国紙の記者は、報道発表について個人的な見解と前置きし、以下のように述べている。

「住所をフル表記で出すのか、被疑者・被害者について実名で出すのか、という点で見た場合、過去10~15年間で、全国的に発表される情報量は明らかに少なくなってきている。以前は実名とされていたものが、匿名になっていたり、住所が市町村までになっていたり、合理的な説明がないまま、どんどん消極的な発表姿勢になっていることに対して、報道機関がきちんと文句を言って、その流れを止め切れていないのが現状だ。報道機関が牙をむかなければ、ますます警察機関の発表は恣意的なものになっていく可能性がある」

前述した報道メモの内容についていうと、「被疑者」を「容疑者」に変えるだけで、警察が発表した内容がほぼそのまま記事になる。ここで確認しておくが、逮捕された被疑者は、あくまでも法的には“罪を犯したと疑うに足る、相当な理由があるとされた人物”にすぎない。犯罪者(犯人)ではないということだ。が、読者からすれば、被疑者も容疑者も同じだろう。

社内やクラブ内の”空気を読む”記者たち

筆者は被疑者の実名報道の必要性にも疑問をもっているが、ダーゲンス・ニーヘーテル紙(約35万部)のベテラン犯罪担当、ステファン・リシンスキー記者はこう指摘する。

「警察の捜査段階では、あいまいな情報が非常に多く、とくに初期の情報は完全な間違いが多々含まれている。だから、事件の内容を正確につかむには、起訴後に弁護士や検察官に取材したほうが確実だ。これは小学生でもわかる理屈だと思う。われわれが報道すべきものは、事件の社会的意味や背景、司法プロセスが適正かどうかなどであって、捜査段階の不正確な捜査情報ではない」(朝日新聞出版『Journalism』2005年5月号)

記者たちは、容疑者として報道した人物が冤罪と判明するなど報道メモの内容が誤りだったとしても、記事の冒頭に「警察によると」とすれば問責されることもない。

発表内容の誤りを指摘したり、疑問点を記事にしたりすれば、警察から抗議される。ときには出入り禁止の処分を受ける。ときにはデスクから書き直しを命じられる。それなら無難な記事を書くほうが楽だし安全だ。そうして記者らは自社内や記者クラブ内の”空気を読む”ようになる。次第に他社との横並び意識が生まれる。その結果、記者たちの取材能力が低下している、との指摘もある。

また、マスコミ各社の幹部の中には、取材に対する警察の協力が得られなくなるとの思惑から、自主規制と称して現場の記者らの警察批判記事を抑制したり、記者たちの社外における発言を制限しようとしたりする動きもあるという。

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