名カメラマンが語る昆虫映像の「リアル」 「アリの目」がテレビの未来を見つけた!
――これまでいろいろな撮影技術を開発してきた栗林さんですが、今の時代で注目している技術はありますか。
何が進歩したかって照明、ライトですよ。昆虫は熱を一番嫌がります。その点、ハロゲンの照明は明るくするためにすごく熱が出て、昆虫に刺激を与えてしまって撮影にならないこともありました。ところがLEDは高温にならずに必要な光量が得られるんです。まさにライト革命です。あと、監視カメラの技術もおもしろいですよね。最近の技術では、空間全体を映しておいて、後で欲しいところだけ切り取ったときに、画像のゆがみが調整できてしまいます。
昆虫カメラマンとして一番注目しているのが、カメラの小型化の技術です。手前にいる昆虫と遠くの景色のどちらにもピントが合う、超被写界深度接写ビデオカメラ「虫の目ビデオカメラ」は、小型化した民生用ビデオカメラを改造して作りました。ビデオカメラ本体に内蔵されているレンズユニットを取り除き、結像部分に35ミリ用レンズのレンズマウントを接合して、カメラの先端に医学用の硬性内視鏡を取り付けたものです。そうした開発には今でも取り組んでいます。以前は秋葉原の電気街に行って、いろいろな部品を探していました。それが今では、ネットで探しています。ネットで探せば、日本にまだ紹介されていないものもたくさん見つかりますね。
今は、「GoPro」(小型ウエアラブルカメラ)を使った撮影機材の開発に取り組んでいます。僕が使うものは業務用のものよりも民生用のものが多いです。民生用のほうが小さいので昆虫撮影には最適です。これを改造して、昆虫をクローズアップできるようなものができないかと試行錯誤しています。
専門性を追求するカメラマンがもっと増えてほしい
――映像はネットで見る時代になりつつあります。ネット配信などはお考えですか。
そういう考えはチラついています。ただ、ネット配信はもうちょっと研究しなきゃいけないと思っています。実は、最近孫が大学を卒業して、ホームページを改良してくれました。彼は、昆虫の映像を世界に配信できるような仕組みを作ったらいいんじゃないかと言ってきます。
――最後に、テレビに携わる人々や、テレビ局に対して伝えたいことはありますか。
最近は「昆虫カメラマンになりたい」と、僕のところにやってくる若者がいなくなってしまいました。以前は毎年1人か2人は必ずいました。昆虫が好きだという子どもはいます。でも、それも小学校低学年まで。そのうえ、昆虫自体も減ってきたような気がしています。そういう状況のなかでも、正確に生きものの記録を放送することは、教育的にも必要だと思います。だからテレビ局は、視聴率を気にしないで放送してほしい。
一方で、カメラマン自身も新しい撮り方の工夫や努力を続けなければいけません。そのためにも、ひとりのカメラマンがあまりマルチにいろいろなことができるようになるのはお勧めしません。いろいろなことができて、それぞれ全部普通になるより、何かを突き詰めて専門的になるほうがいいと思います。
本心では、僕の撮影技術を皆さんに使ってほしい。海外の仕事は若い世代のカメラマンに任せて、僕自身は日本のいわゆる里山を舞台に、身近な昆虫のまだまだ知られていない姿を紹介していきたいと思っています。
(インタビュー・構成:渡邊 悟)
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