名カメラマンが語る昆虫映像の「リアル」 「アリの目」がテレビの未来を見つけた!
また、制作にもっと時間をかけられるようになってほしいと思います。日本では、自然番組の撮影期間が2〜3カ月というケースもありますが、それでは足りないと思います。上質な昆虫番組を作るには、最低2年は必要です。
昆虫には発生のシーズンがあって、だいたいその季節を狙います。でもそのときに、もっとこう撮りたかった、ここをもっと突っ込みたかったと思っても、シーズンが終わるともうその年は何もできません。そこであきらめて、とりあえず撮れたものだけでまとめてしまうのではなく、次のシーズンも撮影して完璧なものにする。そうしたことができるような文化、環境が整ったらいいなと思います。
事実に基づいて生態を「再現」する手法も駆使
――昆虫の生態を撮影するのはいろいろと苦労があると思います。
昆虫の生態すべてに、たまたま出会えるということはありません。昆虫の生きざまをカメラに収めるためには、やっぱり集めたり飼育したりします。たとえば2015年に公開した映画『アリのままでいたい』は、カブトムシのさなぎが脱皮して成虫になる場面から始まります。こういう場面を撮影するためには、やはり事前にたくさん幼虫を用意しておきます。幼虫も個体それぞれで成長のタイミングがずれるので、それぞれがさなぎになった頃を見計らい、幼虫たちが作った巣をカットして、断面を作って撮影しました。
この映画では、カマキリも主役のひとり。場面は卵が孵化(ふか)するところから始まります。カマキリの孵化は1年に1度しかありません。撮影が失敗できないので、とても緊張しました。卵が孵化するのは5月ごろですが、この場合も冬の時期からカマキリの卵を探しておきました。ここで役に立ったのが、長崎県平戸市の田平町で長年撮影してきた経験です。だいたいどのあたりにカマキリが卵を産むか見当がつくんです。そうして卵を10個ぐらい集め、自分の目につくところに並べておきました。4月ごろからは毎日観察して、孵化するのを待ちます。でも、最初の1つ目は撮影しないで、まず観察します。そうすると、次に孵化するもののタイミングがわかるので、そこから撮影に取りかかります。
――そうした撮影手法に否定的な人もいますが……。
生きものなんだから、事実に基づいた再現は、見せるためには必要だと、僕は考えています。海外では再現を駆使して生きものの正しい生態を表現しているものも多いです。それをやらせだ、捏造だという人はいますが、僕は生態的に実際にある場面、自分が実際に目撃したシーンを再現させるのは良いと思っています。前述の映画でも、再現シーンを盛り込みました。わが家の周辺には、飼い猫や野良猫も含めて結構猫がうろうろしているんですが、普段の彼らを見ていて、猫がカマキリを見たら飛びかかって行くのがわかっていました。そこで撮影のときにも、子猫を1匹カマキリの近くにつれてきて、子猫がカマキリにちょっかいを出す場面を撮影しました。