名カメラマンが語る昆虫映像の「リアル」 「アリの目」がテレビの未来を見つけた!
また、南米のパナマにハキリアリというアリがいます。その名前のとおり、自分の何倍もある葉っぱをくわえて運ぶ姿が有名で、葉っぱの行列みたいなものができる。以前撮影したのは雨期のハキリアリの姿だったんです。乾期になると葉っぱが落ちて、代わりに花が咲くのですが、今度はハキリアリが花をくわえて列を作るので、花の行列ができるんですよ。いつかはこの「お花の行列」を撮ってみたいですね。
――これまでのキャリアのなかで、さまざまな制作者とお仕事をされたと思います。今の動物番組の制作者に伝えたいことはありますか。
上質な昆虫番組を作るには2年の撮影期間が必要
大学で生物学を専攻した人など、生きものについての専門性を持つ人を採用して、制作者に育ててほしいと思います。BBCでは、生きもののことを学んだ専門家が単なる監修ではなく、実際の制作者として携わっています。そのことが内容をしっかりさせることと、視聴者を楽しませることを両立させていると思います。日本の制作現場には専門家でありながら制作者であるという人材がちょっと足りないと思います。
少なくとも、撮影対象の生きものについてもっと勉強することが大切だと思います。生きものの生態を理解していないと、頭の中で作った物語に縛られ、生きものの本当の姿を描けなくなることがあります。
たとえば南米のエクアドルでヘラクレスオオカブトという巨大なカブトムシを撮影したとき、こんなことがありました。現地に入るまでの僕は「巨大なオスが他のオスと戦うシーンを存分に見せよう」と考えていました。日本で見かけるカブトムシは、大きな木の樹液が出ている部分に集まって、食べ物となる樹液を奪い合って戦います。ヘラクレスオオカブトでもそうした場面がいっぱい撮れると思っていました。でも実際に現地の森でヘラクレスを探してみると、木の幹にはいないんです。
探しまわってやっと見つけると、枝の上にとまって、皮をかじってそこから出てくる樹液を1人で食べていました。ヘラクレスは食事のときに他の個体とバッティングしないんです。それを見て、私はピンと来ました。ヘラクレスのオスはメスをめぐる戦いはしそうだけれど、食べ物をめぐるバトルはしないんだなと。