“盲導犬ロボット"の可能性 日本精工が最新仕様を開発、16年にも一部実用化へ

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多くのセンサーを付けた旧型の盲導犬ロボット

厚生労働省によると、13年7月1日現在の日本国内での盲導犬の稼働数は1013頭。これに対し、日本盲導犬協会によると推定希望者は3000人にのぼる。また、人が介助をするにしても、互いに気を遣うなど負担は大きい。ロボットはそれらに代わる存在となりうる。実際の犬のように世話をする必要もなく、アレルギー等の心配はない。腕力の衰えた高齢者でも楽に操作が可能だ。ロボットが人間を自動的に引っ張るのではなく、進む速さなどはあくまでも操作する人に委ねられているため安全性のハードルも低い。

日本精工の盲導犬ロボットの研究開発は2005年に始まった。入社当時からロボット開発に関わっている未来技術開発センターの嵯峨山功幸氏は「目の不自由な方は階段のそばまで行って段差が分かれば上り下りできる。ロボット自体が階段を上る機能をつけるのではなく、今後は5kgを目標により軽量化を進めて容易に持ち運びできるようにしたい」と、利用者目線での開発に意気込む。

2020年には屋外利用へ

2016年には病院など屋内での施設案内として実用化、そして20年には屋外利用の実現を目指す。まずは今年2月から始まった神奈川県の「さがみロボット産業特区」と連携し、今年度中に病院での実証実験を始める予定だ。

実証実験に向け現在開発に集中しているのが「ナビゲーション」機能。たとえば病院内で使用する場合は、屋内の地図情報をロボットにインプットしたうえで目的の場所を指定すればそこまで案内できるようにする必要がある。実験開始までに同機能を搭載したモデルを公表する方針だ。

あとは価格だ。現状は1台をつくるのに100万円以上はかかっているとみられるが、グリップ部分の力センサーや障害物との距離を感知するレーザーセンサーの内製化を進めるなどして価格の低減を目指す。「将来的にはセンサーを外販できるレベルにしたい」(嵯峨山氏)。ロボット開発を通した技術の蓄積や新製品への展開も狙っている。

「プロトタイプ止まり」といわれて久しい日本のロボット産業。分野を問わず多くのメーカーが自社の技術を生かせないかと開発を進めているが、こうした地道な実用化への取り組みが不可欠だといえる。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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