トランプの政策はレーガノミクスと異なる 米国の政策転換で最も恩恵を受けるのは日本

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ところで、「トランポノミクス」は「レーガノミクス」と似ている、というのが一般的な見方である。確かに、減税や規制緩和政策は同じ政策だが、筆者はこの見方は一面的だと考えている。詳細は「日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか」でも書いたのだが、レーガノミクスが行われた1980年代と、現在は米国の経済状況が全く異なることが一つの理由である。むしろ、金融・財政政策により経済成長底上げを図るアベノミクスの方が、レーガノミクスよりもトランポノミクスと共通する部分が多い、と筆者は書いた。

実際に、1980年代の米国は高インフレに直面し、金融政策は引締め的に運営された。高インフレ抑制・財政赤字抑制・サプライサイド刺激、が必要だったのが1980年代のレーガン政権である。

一方、現在の米国ではインフレ率は極めて落ち着いたままで、過去2~3年の経済復調によって、デフレに陥るリスクはかなり低下した、という状況である。失業率は低下しているが、イエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長などが重視している労働市場から退出を余儀なくされた潜在的な労働者は依然多く、インフレや賃金が加速するまでには時間がかかるだろう。現状は金融・財政政策による総需要押し上げで、インフレ加速を招かずに成長率を押し上げることが可能と筆者はみている。

トランポノミクスはケネディ時代の経済政策と似ている

上記のような見方は、筆者だけではない。ある米国の著名エコノミストは、トランポノミクスは、レーガノミクスより、1960年代に大規模な減税政策を打ち出したケネディ政権の経済政策に共通する部分が多い、とレポートで指摘している。

1960年代の米経済は高成長・インフレ安定を謳歌したが、当時は所得税などの大幅減税そして緩和的な金融政策が成長率を押し上げた。そして、ケネディ大統領の後継者であるジョンソン大統領が、軍事費や社会保障費支出の拡大を進め、経済成長率をさらに高めたのである。その結果、1960年代後半には失業率が3%台まで低下するなど、米経済は活況を呈した。

もちろん、今後トランポノミクスによって、どの程度の減税や財政支出拡大が実現するかは、依然不透明な部分が多い。特に政府支出の拡大に対する共和党議員の抵抗は強いと予想され、1960年代の「ケネディ」「ジョンソン」両政権と同規模の支出拡大が実現するかは分からない。ただ、もしトランプ政権が今後議会とうまく交渉し、拡張的な財政支出を実現させれば、1960年代の米国とかなり似てくるだろう。

注意したいのは、上記の見方を示す米国の著名エコノミストは、当時の政策について「拡張的な金融財政政策が効きすぎた」と警鐘をならしていることだ。筆者は、当時の景気過熱リスクに対するFRBの認識が不十分だったことが大きいと考えているが、トランプ政権の政策転換も、将来のインフレをもたらすリスクがある。筆者自身は、米国におけるインフレ過熱を懸念する局面はまだまだ先だとみているが、トランプ政権の政策は、レーガノミクスよりも1960年代の民主党政権の経済状況・経済政策と共通点が多いという点には同意する。

トランプ政権下での米国において金融財政政策が「アクセル全開」となり、米国で過去20年続いた、経済成長減速・インフレ率低下・金利低下、という大きな流れは終焉するかもしれない。米国経済の復調と米金融市場のトレンドの大転換が実現すれば、その恩恵を最も受けるのは、依然として脱デフレと2%のインフレ安定を至上命題に掲げる日本経済になるだろう。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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