日本人を縛る「男が家計を支える」という幻想 100年人生を生き抜く「一時的ヒモ化」戦略

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私自身、大学院に通っているときは妻に養ってもらっていました。だから今度は、自分が頑張って働く。100年ライフでは、それが人生全体という大きなスケールで起きるだろうと思います。パートナーと補完しあって人生を紡いでいくイメージです。そもそも80歳まで働くのだと仮定したら、一気に駆け抜けるなんて無理な話。どこかでエネルギーを充塡しなければならないだろうし、リフレッシュも必要でしょう。つまりは、人生の途中でどこかに抜け出さないとやっていけない。

私はビジネススクールの講義も担当しているのですが、老若男女問わず、それぞれが問題意識を持って通ってくる人たちばかりです。ところが、会社にも家庭にもどこか後ろめたい思いを持っているんですよね。エネルギーの充塡をあまり良しとしない風潮がある。米国では、ハーバード大学のMBAに行くのは誇らしいことなのですが、日本の場合は「慶應のビジネススクールに行く」と言っても「すごいね」と言われないのが悲しいところです。

次に大きくジャンプするためにしゃがむ。この学びの期間は『ライフ・シフト』でいう無形資産をつくる時期です。この瞬間をクールでかっこいいとみなす風潮は、残念ながらまだ一般的ではないのかもしれません。

しかし100年ライフを考えると、そうした風潮も変化していくと思います。会社を辞めてしゃがむ人も、短期的には損失のように映るかもしれません。しかしそうした人が社会に増えていけば、そこに人材マーケットが生まれます。彼らは存分に能力を発揮してくれるだろうし、結局その学びは、新たに就職した会社に還流していくでしょう。大きな目で見れば、社会的にはマイナスではないはずなのです。したがってエネルギーの充塡期間をマイナスの視点だけでとらえるべきではありません。

ルーチンで「学び」の時間を

とはいえ、『ライフ・シフト』で描かれるキャリア人生がそのまま日本になじむかというと、必ずしもそうではありません。これまでもキャリアの分野は欧米が先行していました。しかしそれが日本になじむためには、2つの翻訳が必要です。1つは先行するコンセプトを知るための、英語から日本語への単純な翻訳。もうひとつはそれを踏まえたうえで、終身雇用・年功序列が根強く残る日本の特殊事情にどう着地させていくか、という意味での翻訳です。

ただし、それを待っていては遅い。長寿社会はすでに始まっていて、私たち自身も長生きする可能性があります。65歳で定年になって、社会に放り出されてから考えていたのでは間に合わないのです。

今すぐ打てる手は何か。簡単にいえば、自分の生活の中に、いかに学びをルーチンとして取り入れるかです。一時期、スポーツの世界ではルーチンがはやりました。野球のイチロー選手もラグビーの五郎丸選手も、一流といわれる人はなにか大事なことをルーチンとして行っています。

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