日本人を縛る「男が家計を支える」という幻想 100年人生を生き抜く「一時的ヒモ化」戦略

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100年ライフでは、人の意識も社会の仕組みも変わっていくし、また変わらざるをえない。私は人と企業の雇用関係、とりわけ今は採用についての研究を行っているのですが、今の就職活動は一発勝負。どこかで転職という選択肢があるとわかっていても、「ここで失敗したらダメだ」という意識が根強くあります。企業も依然として長期雇用が前提。

服部泰宏(はっとり やすひろ)/1980年、神奈川県生まれ。横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授。日本企業の組織と個人の関わりあいや、経営学的な知識の普及の研究等に従事。2013年以降は特に「採用学」の確立に向けた研究・活動に力をそそぐ。主な著書に『採用学』(新潮社、日本の人事部「HRアワード2016」書籍部門最優秀賞受賞)などがある。2010年に第26回組織学会高宮賞、2014年に人材育成学会論文賞を受賞(撮影:大澤誠)

すると個人の側も企業側も具体的な条件ではなく、あいまいな基準で評価せざるをえません。採用したら、これからずっと付き合いが続くわけですから、企業側は「なんとなく感じのよさそうな人」を採ろうとしますし、学生の側も「やりがいがありそう」とか「社風がいい」といった雰囲気で会社を選ぶ。すると焦点がぼやけてしまい、マッチングの精度が下がってしまうのです。

その点、米国の企業は非常に具体的です。あるプロジェクトの中の、このタスクで君を採用する、といった具合です。採用される側も、それに必要な能力を有していることがあらかじめ求められます。もちろんそのプロジェクトが終われば解雇される可能性も大きいので、どちらが良い悪いの話ではないのですが、少なくとも会社が自分に何を求めているのか、自分は会社にどんな貢献ができるのかが明確になっているのです。

日本においても、今後は会社に対する“貢献”の意味合いが変わってくるでしょう。今までは長期雇用、長時間労働が“貢献”の前提でした。しかし100年ライフになると、自分の生活に合わせてキャリアをどこかで切り替えたり、ステップアップの準備をしなくてはなりません。すると、必ずしも長く勤めている人だけが貢献しているわけではないケースも生じる。企業側もこれまでとは違う視点が必要になると思います。

エネルギーの充塡は不可欠

もうひとつ、私が『ライフ・シフト』で注目したのはパートナーの存在です。100歳まで生きる1998年生まれのジェーンは、パートナーと協力し、互いに補完しあいながら人生を紡いでいきます。1945年生まれのジャックの世代とは大きく異なります。要するに、夫が稼ぎ、妻が家事をするという従来の分担ではなく、お互いの状況に合わせて、養っているときと養われているときがある。100年ライフには必要な視点だと思います。

男性はどこかで「自分が稼がなくては」と思っています。私が受け持っている学生でも、「男だから稼がないと」という昭和的な価値観を持っている人は少なくありません。一方で女子学生は、誰かに養ってもらおうという感覚はほとんどなく、自分で稼ぐという意識を持っています。どちらも「自分が」なんです。もう少しパートナーに頼ったり頼られたりという状況を想定してもいいのかな、と思います。自分と相手に、もっと寛容さ、ユルさを持つべきではないでしょうか。

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