さらに中東では、米国とイランの関係も絡み合う。シリアのアサド政権にとって、頼みとなるのはロシアとイランだが、米国とイランの関係はよくないのだ。2015年7月、米国は英国やフランス、ドイツ、ロシアおよび中国とともに、イランの核開発縮小について合意。しかし、米国とイランの長年の対立は解けかけたが、その後の進展は順調でなく、米政府はさる12月1日、イランに対する制裁の延長を決定、イランが反発するという事態に陥ってしまった。トランプ氏はこの核合意を破棄すべきとしている。
これはロシアに対する融和的態度と比べて均衡を失した姿勢だ。イランの核開発については、米国も含め国際合意を達成したのに制裁を続ける一方、ロシアについては、米ロ関係を冷戦後最悪の状態に陥れたクリミア・ウクライナ問題が解決していないのに、制裁を解除することができるか。そんな相矛盾した政策を強行すれば、米国外交は混乱する恐れがある。
そもそも安全保障面において、米国とロシアの利害は一致しないどころか、基本的に対立している。ミサイル防衛(MD)システムに見られるように、まさにホットな衝突もある。
中ロの狭間で「偉大な米国」を回復できるか
トランプ氏は国防長官にマティス元将軍を任命した。”狂犬”というあだ名を持つ人物であり、米新政権の安全保障外交はオバマ時代より強硬になるだろう。マティス氏も前述のイランとの核合意に反対する一方、ロシアに対する警戒心を隠さない発言を行っている。自信に満ちた表情でマティス氏の人事を公表したトランプ氏だが、マティス氏がロシアと協力関係を重視するとは考えにくい。
このほか米ロ間には最近、オバマ大統領が改めて非難した、ロシアによるサイバー攻撃の問題もある。オバマ大統領はロシア政府が関与したとされる米大統領選への干渉を理由に、米国駐在のロシア外交官35人を国外退去処分とする制裁を発令した。
今後もロシアと中国の関係は米ロ関係に影を落とすだろう。ロシアにとって、中国は利害が共通する戦略的パートナーであり、中ロ両国は国際連合などで西側諸国に異を唱え、合意の成立を妨げてきた。今後も西側は中ロ連携の壁に阻まれることになる。
このような状況でトランプ氏は、中国には厳しく、ロシアには協力的な姿勢を取れるのか、疑問だ。現実の国際政治を経験していけば、米国は中ロ両国のいずれにも、厳しい態度を取らざるをえなくなるのではないかと思われる。そうしないで、両国あるいはいずれかに融和的な態度で臨むなら、「偉大な米国」を回復することなどおぼつかないのではないか。
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