残業地獄が「脳と人生」に与える深刻な影響 長時間労働と決別する新しい考え方

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この時期には、男性ばかりで、長時間労働をして、均一な組織を創ると成功するという法則があります。中国・韓国・シンガポールやタイが、現在人口ボーナス期にあります。一方で、高齢者比率が高く、若者の数が少ないという人口比率になると人口オーナス期に入り、ボーナス期の手法は一切通用しなくなります。

こうなると、労働力人口が不足するので、育児や介護をしながらでも男女双方が社会参画できることが大事。人件費が高騰するので、短い時間で高い付加価値を生み出すことが大事。お客様が均一なものに飽きてしまうので、組織も多様な人材が入り混じっているほうが、お客様のニーズに合った高付加価値型の商品・サービスを生み出すことができると言われています。

日本は、人口オーナス期に入ってすでに20年たつ国です。しかし、人口ボーナス期に大成功したことで、当時の成功体験から抜け出ることができず、男性ばかりの均一な組織で長時間労働をして勝つやりかたに固執してしまっているのがもったいないですね。

今や、若手であったとしても、長時間労働でたくさんの仕事をやって成長する要素は非常に少なくなりました。まもなくAIが出現し、そういった仕事はますます人間の仕事ではなくなります。むしろ人間にしかできない多様な体験をどれだけ積むかが勝負となるのです。

――小室さんの著書『労働時間革命』に、人の集中力は朝起きて13時間しか続かない、とありましたね。

そうなんです。東京大学医学部の島津明人准教授は、人間の脳が集中力を発揮できるのは朝目覚めてから13時間以内であり、起床から15時間を過ぎた脳は、酒酔い運転と同じくらいの集中力しか保てない、と指摘しています。朝6時に起きた人なら午後7時には終了しちゃうんですね。

島津先生の指摘によれば、脳の集中力こそ仕事上最も大事な武器になるホワイトカラーのビジネスパーソンは、残業中の生産性が最も低いということです。最も生産性の下がった時間に、わざわざ1.25~1.5倍もの割増残業代を払っているのは、お人よしの経営者だと思いますね。

長時間労働の悪循環

生産性に関する指摘は、まだあります。労働科学研究所の佐々木司さんは、肉体の疲労は眠りの前半に回復し、ストレスは後半に解消されると指摘しています。数時間で眠気が取れるから自分はショートスリーパーだと思っている方は、たしかに体の疲れは取れているかもしれませんが、ストレスは回復しないままに毎日蓄積してしまい、コップからあふれてしまう、つまりメンタル疾患になりやすくなってしまいます。

また、AI研究の第一人者である日立製作所の矢野和男さんが、サッカー選手やビジネスパーソンを大量に計測して分析したところ、日中の集中力が高い人に共通していたのは、平日と休日で睡眠時間や時間帯の差が少ないという傾向でした。

つまり、平日に残業が多くて土日に寝だめをするような生活では、そもそも慢性的に日中の集中力が下がってしまうので、成果を出すためにさらに時間をかけなくてはならなくなり、長時間労働になればなるほど成果は落ちていく。企業はコストばかりかかり、離職率が高くなるという悪循環に陥っていくのです。

すると、リンダさんが寿命が100歳まで伸びる時代に重要な無形資産の3点目としてあげていた「変身資産=多様な人的ネットワーク」なんて作る時間もなくなります。

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