残業地獄が「脳と人生」に与える深刻な影響

長時間労働と決別する新しい考え方

――本当に深刻な問題ですね。

そうですね。さらに、日本の少子化を解決するうえでも、大きな問題があります。厚労省のデータでは、第一子が生まれた夫婦を11年間追跡調査したところ、第一子が生まれた時に夫の帰宅時間が遅く、家事育児に参画する時間が短かった家庭では、その後第二子以降が生まれていないという傾向が見られました。つまり、少子化対策に重要なのは「男性の働き方改革」だったんですね。

20時以降残業禁止を打ち出した都庁は、以前の不夜城ぶりを知っている私からは、とても画期的だと思います。でも、子育て中のママの視点からすると、それでも遅いのではないでしょうか。夜8時まで残業して、9時過ぎに家に帰ってきて食事をして、10時近くから子どもと遊ぼうとする、そんなことはやめてほしいと思っているでしょう(笑)。寝かしつける時間に興奮させないで~!と。

ひとりひとりが、会社ですべてのエネルギーを使い果たして帰宅するのではなく、余力を残して退社することで、自己啓発をする人が増える、異業種の勉強会に繰り出していく人も増える、笑顔で家庭に帰宅し夕食を取ってゆっくり睡眠を取る。そんな社会を作ることができたら、まだまだ日本には大きなイノベーションの力があるでしょう。

労働時間短縮で成果を挙げた企業

私たちのコンサルティングを受けて働き方改革を行った企業では、劇的な変化が起きています。損保ジャパンでは、浮いた時間を自己研鑽にあてて、TOEICの点が200点もあがって、念願の海外勤務を果たした若手が出てきたり、かんぽ生命では、たった5カ月で25%も残業が削減でき、その浮いたコストを活用して、社員のイーラーニングを無料にしたり。リクルートスタッフィングでは、休日労働が86%削減できて、生産性は4%向上し、女性従業員が出産する数が1.8倍に、社員が自己研鑽する数が1.6倍になりました。

店舗を抱えて、働き方改革は難しい業界であるアパレルのシップスでも、店舗のバックスペースを使って働き方改革の会議を行い、店舗ごとの工夫を次々に生み出しています。大塚倉庫では、荷積み待ちをするために前日からトラックを駐車させて場所取りをしている状況を改善するために、スマホのアプリで荷積みの予約ができるシステムを作り、ドライバー不足になっているトラック業界の労働環境改善を実現しています。制約こそがイノベーションを生むのです。

――大きな改善ですね。

労働時間の上限がある世界とない世界では、社員がまったく違う動きをします。上限がない場合は、月末、あるいは年度末に向けて「期間当たり生産性」を最大化しようと、時間外労働を行って成果を積み上げる競争が行われます。これは、ノウハウ共有のない、属人化した個人戦になります。

すると、育児や介護に時間を使っている社員は、勝てないゲームだとわかっているので、モチベーションが大幅ダウン。

一方で独身社員に仕事が集中。婚活などの暇はなくなります。既婚の男性社員にも仕事が集中し、育児参加が難しくなって第2子は生まれない。育児女性はキャリアをあきらめて会社のお荷物になる。

組織は集中力の切れた長時間労働ですから利益率も減少……。こんな負のスパイラルに陥ります。

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