それにしても意外だったのは、米国の情報機関による香港でのハッキングターゲットの一つに、香港中文大学が含まれていたことだ。香港中文大学は、私が大学時代に1年間留学した思い出の場所だ。香港には、2つの主要な大学があり、ひとつは英語教育で知られる公務員などを養成する香港大学。こちらは香港島にあり、英国統治下で現地エリートの養成の役割を負っていた。これに対し香港中文大学は文字どおり、中国語(中文)での教育にこだわり、香港人社会の文学や歴史など人文関係の拠点となっていた。
なぜ大学にハッキングかと疑問に思っていて調べてみると、香港中文大学は香港のインターネットネットワークで唯一の海外中継地となっていることがわかった。1990年代初頭、香港中文大学では学術交流のため、学校内に米国と直接結ぶサーバーを設置し、香港のほかの教育機関などにも開放していた。
その頃、香港ではインターネットを利用するときはまず海外のサーバーにつながなければならなかったため、接続速度が遅いなどの問題が生じていた。そこで香港当局は香港中文大学のサーバーを全香港のハブとして利用することを決め、香港インターネット交換中心(HKIX)と名称を変え、香港のネットワークが海外とつながるときは必ずHKIXを通らなければならないことになっており、米国政府が狙ったのも、このHKIXの可能性が高い。そうなると、香港も米国の情報収集の被害者ということになる。
「彼は言論とウェブの自由を守ってくれた」
スノーデンは言葉のセンスもいい。香港市民に対し、メディアのインタビューで「香港の法律と香港の人民に私の運命を委ねる」と語っている。この言葉は香港市民の被害者意識に訴えるだけではなく、そのプライドと正義感を巧みにくすぐるものだ。英国の伝統を受け継ぐ香港人は、1989年の天安門事件に対して毎年追悼抗議集会を数万人規模で開催しているように、法治と人権へのこだわりは強い。
香港の週刊誌『亜州週刊』はその巻頭コラムで「スノーデンは忘れたふりをする米国人を告発し、香港、米国、世界で自由を愛する人民の支持を勝ち取った」とスノーデンを持ち上げた。
香港では27もの民間団体が連携して街頭デモを行い、香港特別行政区政府に対し、国際条約と国際慣例を守ってスノーデンを保護するように要求した。27の団体には、教育関係、政党関係、労働組合、外国人グループなどが含まれ、米国領事館と香港政府に向けてシュプレヒコールを繰り返した。彼らの主張は完全にスノーデンの言葉に呼応している。デモの主催者は「彼は自らの安全を犠牲にして、言論とウェブの自由を守ってくれた。香港は政治的迫害のおそれを理由に、引き渡しを拒否すべきだ」と述べている。
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