中国人観光客は「毒」か「薬」か? ツーリズムにも「チャイナリスク」

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この連載コラムでは、中国のみならず、台湾、香港、東南アジアを含む「グレーターチャイナ」(大中華圏)をテーマとする。私は20代から40代前半の現在まで、留学生や特派員として、香港、中国、シンガポール、台湾に長期滞在するチャンスに恵まれた。そうした経験の中で培った土地勘を生かし、「大中華圏」 での見聞を硬軟取り混ぜて皆さんにお伝えしていきたい。
台北故宮に押し寄せる中国人観光客。館内には長蛇の行列ができている(写真:Bloomberg via Getty Images

静かだった台北故宮が、喧噪の渦に

台湾きっての観光名所、台北の故宮博物院(以下台北故宮)の入場料が、これから大幅に値上げされるという。その主な理由が、増えすぎた中国人観光客の来場を抑制するためだというから二重に驚いた。

かつて、中国から台湾への観光客はほとんどゼロに等しかった。中国と台湾が対立関係にあったからだ。しかし、2008年に政権に就いた馬英九総統は中台関係の改善を進め、象徴的な政策として、中国人観光客の台湾観光を開放した。その結果、一気に中国人が台湾に押し寄せ、今では日本人を抜き去り、最大の「外国人」観光客の地位に躍り出ている。

台北故宮に収蔵される中国文物は、1949年の台湾撤退のときに、蔣介石が中国から台湾に運び込んだものだ。中国人の意識には「台湾に行くなら何が何でも台北故宮に行きたい」という気持ちがある。今は1日に最大4000人が中国から台湾を訪れているが、団体ツアーの場合、台北故宮への訪問率は100%に近いと言われている。

台北故宮では入場者が急増し、昨年は212万人を超える中国人が訪れた。前年比で70万人の増加だ。博物館グッズも大いに売れて、笑いが止まらないはずだった。ところが、昨年あたりから大勢の中国人観光客によってロビーや展示フロアが占領され、ほかの参観者から強い不満が出るようになっていた。

実際、数年前までは、台北郊外の森の中にある台北故宮は静けさに包まれ、「中国美術の粋に触れよう」という気持ちを高めながら参観を楽しむことができた。だが今では、まるで生鮮市場のような喧噪に包まれている。展示スペースでは、人気の展示品である「翡翠白菜」や「肉形石」のところに長蛇の列ができ、作品にたどり着くまで30分や1時間待ちもざらになっている。私の場合、最近は週末の夜間開館の時間を狙って行くことにしている。夜間は中国人が来ないため、落ち着いて作品を眺めることができるからだ。

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