不妊治療、わたしはこれがつらかった! 今や不妊は国民病です 

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学力はオールAなのに精子は「判定不能」

男性側の意見も聞いてみよう。北陸地方で複数の飲食店を営む、「4代目」の金澤航平さん(仮名・40)は、精子の通り道が閉塞している閉塞性無精子症という「男性不妊」に悩む一人だ。

「地元地方銀行のOLだった妻は、5年前に結婚後、家業の手伝いをしながら『5代目』を産むことを半ば義務づけられていました。ところが、2年経っても3年経ってもできない。当時は、まさか自分に問題があるとは想像もしませんでした」

小さな町であるため、地元の名士の「世継ぎ」が誕生しないとなると、うわさがうわさを呼ぶ。

「寄り合いや、組合の活動のとき、『まだなの?』と言われるくらいならまだいいほうです。ただ道を歩いているだけで、『病院行ったほうがいいよ』と言われることもあります」

航平さんの両親も、子宝に恵まれないストレスをまず妻にぶつけてくる。「早く跡継ぎの顔が見たい」と無責任に催促してくるのだ。

「今度は妻が両親の悪口を言い出す。すると僕も面白くなくて言い返す。夫婦の仲まで最悪になり、お互いノイローゼ寸前でした」

離婚の危機さえあったが、「子どもができれば万事解決」と考え、昨年、不妊治療を受けることを決断した。しかし、ここでも「田舎」の壁が立ちはだかる。

「地元の病院に行けば、医者や患者に必ず知り合いがいる。受診を知られるのは避けたいので、東京に遠征することにしたんです」

ネットで評判の医院に駆け付け、医院近くのウイークリーマンションと契約。妻は、そこで“単身赴任”しながら、検査、検査の日々。航平さんも、3回に及ぶ精子検査や受診のため、何度も東京に通った。

「3回の精子検査の結果は『検出不可』。精子検査は奇形率、速度、運動率などの項目で、ABCDE判定が出るのですが、判定さえできない。学校の成績はつねによかっただけに、『判定不能』というのは脳天を打たれるほどショックでした」

閉塞性無精子症は精子が存在しないわけではないので、精路再建術により詰まりを解消すれば、自然妊娠の可能性もあるし、睾丸(こうがん)を切断して精子を 取り出し体外受精することも可能だ。夫婦共に相当な身体的負担を強いられるうえ、コストは約100万円かかるそうだが、夫婦相談の結果、「やる」と決断し た。現在は、航平さんの手術待ち状態だ。

「まさか、睾丸を切るとは想像もしなかったので、今から緊張してよく眠れ ない日もあります。睾丸が温まるといい精子ができないからと、趣味のサイクリングも、サウナも禁止され、入浴はシャワーだけ。元気な精子を作るためだと、 トマトばかり食べさせられるなど、つらいことだらけですが、責任は自分側にあるので黙って従うのみです。妻は僕以外の人と結婚すれば自然妊娠できたはずな のに、したくもない体外受精の苦痛を味わうのかと思うと、耐えるしかありません」

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