不妊治療、わたしはこれがつらかった! 今や不妊は国民病です 

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薬漬け注射漬けで体がボロボロに

不妊治療経験者が悩むのが、「やめ時、あきらめ時がいつかわからない」ことだという。不妊治療を行う医療機関は、「やめましょう」とはなかなか言い出さない。あらゆる手を尽くしても子宝に恵まれない夫婦は、妻の閉経で「強制終了」というケースも少なくないという。

夫婦共に大手マスコミに勤める、香川智美さん(仮名・42)、敦さん(仮名・40)は、そうなる前に自らの手で、2年に及ぶ不妊治療の幕を下ろした。智美さんが言う。

「永遠に続くぬか喜びと絶望の連続に、疲れてしまったんです」

結婚して2年間子どもができず、大学病院の不妊治療外来に通院。検査の結果、智美さんがかつて子宮内膜症を患っていたため、子どもができにくいことがわかった。そこで排卵剤を投与し、妊娠しやすい体を作ったうえで、人工授精に6回トライしたが、妊娠できない。

「自分は、新しい命を次につなぐという生物の本分も全うできないのか、と落ち込んでいるのに、病院側は淡々と、『では、次は体外受精いきます?』と聞いてくる。ちょっと待ってよ、と思いましたね」

というのも、このとき、智美さんは心だけでなく、体もボロボロになっていたからだ。

「排卵剤の注射、黄体ホルモン注射などの連続で、お尻はもう刺すところもないほどアザだらけ。筋肉注射だから、注射を打たれるのも激痛が伴うし、その後も 刺した辺りが痛くて、ズボンをはくこともできない。薬の副作用で年中イライラする。いちばんおそれていた、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)にもなりかけま した」

OHSSとは、卵巣がはれ腹水がたまることもある深刻な病状で、これによりかえって排卵しにくくなる。まさに「不妊治療不妊」の最たるものだ。仕事と不妊治療の両立にも、限界が来ていた。

「午前中休むことは頻繁にありましたが、注射のためだけに、急きょ、『夜10時に来てください』と言われることもあり、仕事の予定が立てられない。勤めている会社が不景気でリストラもしているときにこんな調子では、私の席もいずれなくなるな、と思いました」

夫も夫で、度重なる人工授精のため、精液を絞り出すつらさに辟易していた。また夫婦そろって、病院側の対応には嫌気が差していた。

「患者を不妊治療成功の数字を上げるための道具としてしか見ていない感じで、子どもを作ることに必死になるのがバカらしくなった。夫婦が『やめようか?』と言い出すタイミングは、ほぼ同時でした」

幸い夫婦は、登山やアジア旅行など共通の趣味も多い。「一生子どもがいなくとも、充実した人生は歩める」と、昨年、すっぱり不妊治療を断念した。

「これまで、不妊治療にいくらかかるか怖くて家も建てられずにいましたが、現在は家を建設中です」

香川さんは、長かった不妊治療を「アキレスと亀」の話に例える。「無限に追いかけても追いつけないことはあるのだと気づきました」

医療の進歩により、子どもを持つ手段の選択肢は増えた。だが、“無限の選択肢”が、かえって人を苦しめることもある。

佐藤 留美 ライター
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