「通常は、『こういうことがあったから、悪いけどこれをやってほしい』と、理由から先に伝えます。でも、緊急時は逆。アクションを先に言う。『これをやってください』。その後に理由を言います」(星出)。
これらのやり方を、星出はNASAの管制センターで交信担当のCAPCOMを経験したときに学んだという。
「宇宙と地上のやりとりを見ていて、こういう伝え方は混乱するなとか、すっきりわかるなとか。混乱するのは主に、情報量が多すぎるときです。的確な量の情報を、的確なタイミングで言うことが大事ですね」
円滑なコミュニケーションのために、宇宙滞在中、星出は大事な仕事の前後には、なんと宇宙から地上のフライトディレクターに、直接電話をかけたという。宇宙と管制室の間にはオフィシャルな交信回線はあるが、本当に重要な作業の前に、「準備はどう?」と本音で会話するのだ。
そして作業が成功したら、「どうだった?」とまた電話をかける。こうした緊密なコミュニケーションで、「宇宙と地上という距離感を感じさせなかった」「隣の部屋で仕事をしているようだった」と管制チームに安心を与えた。
管制官のひとりがこう言う。「星出さんはじめ、宇宙飛行士はOPENに心を開いている。地上のわれわれに命を預けていると認識しているから、『Mutual Respect』、つまり互いに尊敬し合っている、対等な関係であると感じさせてくれる」。
星出は大学時代にラグビーに熱中していた。ポジションはスクラムハーフ。フォワードが獲得したボールをバックスにつなぐポジション。ラグビーという大人数のチームスポーツをした経験が、宇宙飛行士の仕事にも生きていると星出は言う。
「ラグビーチームには大きかったり小さかったり、力が強かったり足が速かったり、いろいろなキャラの人が集まってチームとして成り立つ。私は身体は小さなほうだし、足は速くても力は強くない。でも、自分の役割を理解してチームのためにプレーした。宇宙飛行も同じ。それぞれが自分の個性を発揮し、役割を果たして補い合いながら、みんなでトライを目指すんです」
1+1が2以上になるか、2以下になるか。それぞれの能力が高ければ、チーム全体の能力もアップするとはかぎらない。いかにメンバー同士が自分をさらして心を開き、互いの個性を生かしつつ、チームでひとつの目標を目指せるか。宇宙もラグビーも根底は同じである。(=敬称略=)
(撮影:風間仁一郎)
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