理由②:会社に正式な人事・法務があり、事前に検討を加えている
通常、大企業であれば、社内に法務・人事といった管理部門が存在しており(株式上場するときの審査項目にもなります)、解雇の検討などをする際には事前にチェックし、顧問弁護士にも相談して意思決定をします。しかし、中小零細では管理部門は経理・総務くらいしかなく、人事・法務がないという会社も多く見られます。そうすると、社員をクビにするかという判断も実質的には社長が一人でやっている、という会社も多くなるのです。
理由③大企業であるが故のチェック機能
上場企業であれば、株式が市場に出ているわけですから、株主、ひいては世間の評判というのは重大な関心事になります。そのため、無用なクビを乱発して、世間のひんしゅくを買うということは基本的には避けようとするわけです。しかも有名企業で裁判などになればニュースなどにもなり得ます。
しかし、中小零細など誰も聞いたことが無い会社の場合、ニュースとしての価値も乏しいことから、よほどブラックなケースでもないかぎり、労働紛争が報道される例などはさほど多くありません。そうすると、社会的な評価をさほど気にする必要も無く、そのようなチェック機能は働かないことになるため、冒頭の例のようなブラック「クビ」が発生するという仕組みなのです。
大企業であれ、中小企業であれ、労働法は同じ
もちろん、大企業であれ、中小企業であれ、労働法は同じです。そのため、違法な解雇は法律上無効になりますので、訴えれば勝てる事例も多数あるのです。しかし、問題は、解雇や退職を迫られた際に「弁護士に頼んで裁判をする」ケースは氷山の一角に過ぎない点にあります。これは統計上明らかで、日本において、解雇等をめぐる労働裁判の件数はおおむね1年あたり1000件程度・労働審判の件数も1670件程度で、要は、多く見積もっても3000件弱でしかありません。
一方で、厚生労働省の統計によれば、一年間の離職者、つまり会社を辞めた方はおおむね713万人です。この中の大半とは言いませんが、仮に退職者の1割がブラック「クビ」であるとすれば、71万人、5%であるとしても35万人が労働法では救われずに、「泣き寝入り」していることになります。つまり、大企業に入らなければ、解雇規制などの労働法の保護を適切に受けることができない「ダブルスタンダード」状態にあることが、残念ながら現実なのです。
ここまで、さまざまなポイントについて分析してきましたが、決して、「労働者側の弁護士がおカネを取りすぎている」とか、「裁判所が悪い」とかそういう次元の話をするつもりはありませんので、その点は念のため。次回は、このようなブラック「クビ」に対して、どうして人々は泣き寝入りをせざるを得ないのか、その理由を詳しく分析したいと思います。
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