個性を認められたくば、発信方法は右に倣え 経済学、そして経済学者に「国境」はあるのか?

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現代においては、言語的には、言うまでもなく「英語」(もともとは、ブリタニカの一地方言語)のことであり、文化的には、ギリシア=ヘブライ以来のヨーロッパ文明と言えるでしょう(20世紀アメリカ文明をそれとは独立に花開いたものと見るかについては、識者がどこに力点を置くかで結論が異なってくるでしょう)。

「大航海時代」と「帝国主義」の時代、そして、「大戦」の世紀だった20世紀を終え、21世紀の現代、人は科学的であるために、ギリシア=ヘブライの精神に則り、英語を用いて、思考し会話しなければならないことになっています。

こうして、人は己の出自を忘れ、そして、その土台の個別特殊性に気づくことなく、自らを普遍的な「ヒト」、上で見たような、経済学の分析における「国境」を持たない個人と同定することになるのです。

日本人ならではの不利が、むしろ「有利」に

しかし、そうしたストリームから外れた発想の豊かさが、科学の原動力のひとつであるとすれば、たとえば日本人が生まれながらに与えられた不利な点、即ち、英語をネイティヴ言語としていないことは、むしろ長所と結び付いていると見ることができるかもしれません。

著者近影:写真にうつる際のポーズでさえ、国によって別の意味を「発信」するものです

もちろん、表面的には、現在支配的な英語とギリシア=ヘブライ文明に従った方法で発信を行わなければ、折角の成果であっても、そもそも相手にまともに取り合ってもらえないでしょう。

これこそは、まさに政治です。

しかし、日本人だからこそ気づく特殊性、その特殊性を突き詰めることによって、ギリシア=ヘブライとは異なる普遍性を打ち出すことができる。

翻って、そうやって獲得した普遍性の観点から、再び特殊に就く。

21世紀における非ヨーロッパ文明の社会科学者そして人文科学者が貢献する科学は、「国境」から離れようとしつつ、むしろ積極的な意味で、「国境」から離れられない性質のものになっていくのではないでしょうか。

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