進次郎氏らが掲げる社会保障の将来像を読む 「人生100年時代」へ改革はすでに始まった

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ただ、今の仕組みで足らないのは、病気の予防や健康維持へのインセンティブが、公的保険にはほぼないことである。小さなリスクを自己負担にするだけでは、小さなリスクに直面したときでも負担に耐えられない低所得者を助けられない。そもそも、小さなリスクに直面しないようにする努力に報いる仕組み、インセンティブが必要だ。「健康ゴールド免許」は、その方向の先にあるアイディアといえよう。

しっかりしたエビデンスの蓄積が必要

「健康ゴールド免許」は、言うは易し行うは堅し、というのが現状だろう。どういう予防が効果的か、医療も介護もデータに基づくエビデンス(証拠、根拠)が不足している。予防のために健康診断を受ければ自己負担が軽減されるというだけだと、形ばかり健康診断を受けるだけで、実際の医療費が減るとは限らない。ましてや、医療機関を1年間受診しなければ(健康に努めたとみなして)次の年には自己負担や保険料を減免するといえば、過度な受診抑制が起こり、かえって人々の健康を損ねてしまいかねない。先天的に病弱な人の扱いをどうするかという問題も残る。

まずは、どのような取り組みをすれば効果的に予防や健康維持ができるかという、しっかりとしたエビデンスをデータに基づいて蓄積することから始めなければならない。極言すれば、「健康ゴールド免許」は、(匿名性を担保した上で)それに資するデータを提供することに同意すれば、自己負担を軽減するなどという形から始めて、エビデンスが蓄積した後にインセンティブが働く仕組みへと転換するというのも、あり得るのではないか。
 

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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