年金「世代間の公平」をめぐる与野党の攻防 「マクロ経済スライド」の効用と弱点

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世代間の受益と負担のバランスを考える必要がある(写真:suntaka/PIXTA)

年金制度改革関連法案の国会審議が始まった。早速、与野党が激しい攻防を繰り広げている。

この法案には、物価上昇時でも賃金が下がれば年金支給額を引き下げる仕組みを新たに導入することなどが盛り込まれている。この内容について、野党の民進党は「年金カット法案」であると厳しく批判している。与党には、2007年に「消えた年金」問題が第1次安倍晋三内閣退陣への契機となった苦い過去がある。

今回の与野党の攻防を客観的に見るには、いくつかの基礎知識が必要だ。

そもそも、今の公的年金制度は、2004年の改正でその姿を大きく変えた。これは年金の給付と負担をめぐる世代間格差を是正するのに寄与した。というのも、2017年度以降、年金保険料(率)を引き上げるのをやめることにして、今の若年世代やまだ見ぬ将来世代の保険料負担をこれ以上増やさないようにした。

そのために導入されたのが「マクロ経済スライド」である。年金保険料(率)はこれ以上上げられないので、保険料を払う若年世代の人口に応じてしか年金保険料は入らない。その範囲で給付するとなると、若年世代の人口の減少に応じて高齢者への年金給付を調整しないといけない。いわば、「若い人が減る分だけ年金給付が減ることを受け入れて欲しい」という仕組みである。わが国の公的年金制度は、実態的には賦課方式(子から親への仕送り方式)なので、少子化で子どもの数が減るからには、ない袖は振れない。

マクロ経済スライドは一度しか発動されなかった

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しかし、このマクロ経済スライド。導入されてから今まで一度(2015年度)しか発動されたことがない。

その理由は、デフレが続いているからである。マクロ経済スライドは、公的年金制度に既にある物価スライドと併用される。物価スライドに従えば、デフレ下で物価が下がれば、それと連動して公的年金給付も減らされる(物価が下がった分だけ減るにすぎないので、年金給付の実質価値は減少しない)。

ただでさえ、年金給付が物価下落に連動して減るのに、加えてマクロ経済スライド(年率マイナス0.9%)でさらに減るとなっては酷だ、ということで、物価が下落するデフレ下では、マクロ経済スライドを発動しないことが、導入当初から決められていた。

その上、政府は、2000~2002年度に、物価スライドすら発動を止めてしまった。だから物価が下がっても年金給付は減らさず、物価よりも高い水準(特例水準という)で年金給付がなされていた。特例水準が解消できないとマクロ経済スライドが発動できないという状態が続いた。そして、2015年度に、政府は特例水準を解消させた。

これまでマクロ経済スライドがほとんど発動しなかったために、今の高齢者の年金給付は、今の若年世代が老後にもらえる年金給付に比べて、かなり高止まりする水準にとどまってしまった。マクロ経済スライドを導入したのに、世代間格差の是正はいっこうに縮まらない。

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