年金「世代間の公平」をめぐる与野党の攻防 「マクロ経済スライド」の効用と弱点

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マクロ経済スライドは、また、物価が下がっても上がっても、現役世代の賃金が下がるときには発動されない。今の仕組みだと、物価が上がっても、現役世代の賃金が下がれば、年金給付は減らない。すると、現役世代の賃金は減っているのに、高齢者の年金給付は維持されるという状態になる。これでは、年金の給付と負担をめぐる世代間格差は縮小せず、若者の年金不信は払拭できない。

そこで、臨時国会の論戦である。政府は、マクロ経済スライドの適用基準を見直し、物価が上がっても賃金が下がれば年金給付を引き下げる仕組みを新たに導入することなどを盛り込む年金制度改革関連法案を提出した(提出したのは今年の通常国会で、可決されず継続審議となり今臨時国会へ送られた)。

野党の民進党は、この新たな仕組みを導入した場合、過去10年間の物価と賃金の推移を当てはめれば、年金給付は現状より5.2%減るとの試算を示し、高齢者への打撃が大きいと指摘した。これに対し、安倍首相は、その試算は不安をあおるもので、政府は賃金が上がる状況をしっかりつくりたい、と反論した。

若年世代の将来不安を払拭する必要がある

確かに、今の高齢者の給付は、マクロ経済スライドが発動される機会が増えると、減ってゆくことになる。しかし、マクロ経済スライドは何のための仕組みかを十分に踏まえなければならない。本来は、若年世代の将来の年金への不安を払拭することが狙いである。年金保険料(率)をこれ以上引き上げないと決めた以上、マクロ経済スライドは今の高齢者の給付を抑え、その分、今の若年世代が老後にもらえる給付をできるだけ多くするように作用する。世代間対立をあおるつもりは毛頭ないが、ない袖は振れず、世代を超えた助け合いをどう実現してゆくかが問われている。

厚生労働省が2014年に出した試算によれば、2014年度の高齢者の給付は所得代替率(受給開始時の年金額がその時点の現役世代の所得に対してどの程度の割合かを示す)で62.7%だが、今の仕組み(前述した状況ではマクロスライドが発動しない)のままだと、2044年度以降の高齢者(65歳から受給するとすれば1979年以降生まれの人)がもらえる給付は所得代替率でみて50.2%となる。これに対し、この年金制度改革関連法案が成立し、マクロ経済スライドをフル発動した場合、所得代替率でみて51.0%に給付水準が改善する(ケースE)。

ちなみに、この2014年の試算とは、「年金の財政検証」と呼ばれており、東洋経済オンラインの本連載の第1回「年金は、本当に『100年安心』なのか」にて詳述している。

このように、マクロ経済スライドを発動すれば、世代間格差は縮小する。今の高齢者の給付にだけ焦点を当てたのでは、偏った議論である。

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