基礎年金の税方式化 大半の国民は損に 企業が専ら得をする

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基礎年金の税方式化 大半の国民は損に 企業が専ら得をする

大勝した2004年の参議院選挙以来、民主党は公的年金改革を総選挙のたびに公約に掲げてきた。そして、民主党とは思惑を異にしながらも、経済財政諮問会議の民間議員、日本経団連や経済同友会などの経済界、連合、「改革論者」を自認する学者、さらに日本経済新聞、一部の自民党議員などが声をそろえて主張してきたのが、基礎年金の全額税方式化だった。ところが、その税方式への移行が現実的に不可能であり、かつ税方式化の最大の目的とされていた未納・未加入者対策にも効果が期待できないことが、最近明らかになった。

その事実が判明したのは、5月19日に開催された社会保障国民会議の所得確保・保障分科会の場だった。同分科会で「公的年金制度に関する定量的なシミュレーション」が公表され、基礎年金を全額税方式化した場合の将来の国庫負担や保険料負担の見通し(マクロ試算)および家計および企業に与える影響(ミクロ試算)が示された。そして、その結論は極めて衝撃的だった。

国民の利益にならぬ改革

試算から導き出された結論は次のようなものだった。

(1)マクロ試算からの結論

1.国民年金(この場合は自営業やパート労働者などの第1号被保険者)の保険料納付率が現状(65%程度)の水準で推移したとしても、年金財政への影響はほとんどない(つまり未納・未加入者の存在による年金給付への悪影響は極めて小さい)。したがって、未納・未加入問題が原因で公的年金制度が破綻する可能性は皆無に等しい。

2.国民全員が基礎年金満額(6・6万円)をもらえる税方式(以下、A方式)に09年度から移行する場合、14兆円の消費税増税が必要(国庫負担を給付費の2分の1に引き上げるための2・3兆円は別に必要)。税率換算では5%に相当する。また、過去の未納期間に関する分を基礎年金から減額する場合(B方式。いわゆる「小さな税方式」)でも9兆円の消費税増税(税率換算3・5%)が必要になる。過去の保険料納付分を基礎年金満額分に加算する場合(C方式)、24兆円の消費税増税(税率換算で8・5%)が必要になる。

(2)ミクロ試算からの結論

1.上記のA、B、C方式のいずれでも、サラリーマンは所得水準にかかわらず、大幅な負担増になる(消費税増税額が基礎年金に関する保険料減少額を大幅に上回るため。負担増は月々数千円~2万円を超す)。

2.自営業者などの世帯では、年金保険料の全額免除対象者など低所得者が大幅な負担増に直面する。

3.すでに保険料を払い終わった人や年金受給者の負担も、消費税増税により大幅に増加する。

そして、消費税の上げ幅が相対的に小さいB方式(小さな税方式=日経新聞が提唱)でも、未納・未加入者の多くが抜本的には救われないことや、未納・未加入者の解消には、最短でもおおむね65年もかかることも判明。また、未納・未加入者がいなくなることによる生活保護費の圧縮が大して期待できないことも数字で明らかになった。

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