アメリカは宇宙開発も多国籍 どうすれば日本に人材を集められるか?

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どうすれば日本に人材を集められるか

ではどうすれば優秀な人材を日本に引き付けられるか。中長期的には、世界中の人が「日本に行きたい」と思うようなわかりやすい魅力を育て、発信することだろう。いわゆる「ソフトパワー」だ。

だが、短期的には、やはりおカネを積むしかない。

ヨーロッパにおける理系最高峰の大学のひとつであるスイス連邦工科大学(ETH)が、ポスドク研究者に対してfellowshipとして支払う年俸は、初年度が9万7200スイスフラン(約1050万円)、2年目が10万2100スイスフラン(約1100万円)である。スイスは小国である故、人材を集めるために並々ならぬ覚悟を持っているのだ。

日本のポスドクの給料はまちまちだが、一例を挙げると、日本学術振興会が「外国人特別研究員」制度によって海外から招聘するポスドク研究員に支払う給料は、年額で434万円である。

一方、MITのポスドクの給料は一般的に非常に安い。円相場にもよるが、年額400万円にも達しないかもしれない。これは、優秀な人が集まっているから優秀な人が来たがるという好循環ができているため、どんなに給料が安くてもMITに来たがる研究者はいくらでもいるからだ。同じアメリカの大学でも、学校の格が下がると給料は上がる。おカネを積まないとMITとの人材獲得競争に勝てないからだ。

数カ月前、Caltechの学長であるJean-Lou Chameau博士がサウジアラビアのアブデュラ王立工科大学(KAUST)に引き抜かれたことがニュースになった。KAUSTがどれだけの条件を提示したのか公表はされていないが、2010~11年度にCaltechが彼に支払った年俸が82万7800ドル(約8300万円)だったから、それよりもはるかに高い破格の条件であったことは間違いない。

日本は、少なくとも欧米圏から見れば、地理的距離と、文化的・言語的差異の大きさというハンディキャップがある。欧米人が日本に赴任する感覚は、日本人がアラブ首長国連邦のドバイに赴任するくらいの感覚ではなかろうかと想像する。だから、そのハンディキャップを超えて欧米との人材獲得競争に競り勝つには、どうしても欧米以上におカネを積む必要があると思う。

日本企業が人材獲得競争に負けた実例を、間近で見たことがある。僕がMITにいた頃、近くの研究室に、たった3年強で博士過程を卒業した非常に優秀な友人がいた。彼は日本のアニメが好きで、コンピュータサイエンスを専攻していたから、日本のゲーム会社への就職を考えていた。面接を受け、難なく内定をもらったのだが、その後に僕にこんな質問をした。

「月給50万円って、日本ではいい給料なのか?」

彼はシリコンバレーの某IT企業から、その倍近くの給料でオファーをもらったという。アメリカの給与体系は年功序列ではない故に、新入社員にもそれだけの額を出すことができるのだ。給料が交渉で決まるアメリカでは、プロ野球と同じように、給料の提示額がその人の能力の評価と取られる。彼は、日本の会社はこの程度しか俺を評価してくれないのか、と落胆していた。彼が日本に来なかったのは言うまでもない。ちなみに彼は悩んだ末にそのIT企業からのオファーも断り、ポスドクとしてMITに残った。

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