アマゾンも参入!「実店舗」が流行するワケ ポップアップストアという顧客獲得戦略

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たとえば、ランナー向けブランドのトラックスミスは今年、ボストンマラソン専用のポップアップストアを開設し、レース出走者のみが特定の商品を購入できるようにした。

また、クリーク・メディア・グループがローンチした「ソーシャル」ブランドのオブセッシーは8月、ロサンゼルスのショッピングモール、ザ・グローブにポップアップストアを開設。その狙いは、ターゲット層のジェネレーションZ(1990年代前後~2000年代終盤に生まれたデジタルネイティブ世代)に、オンライン世界とオフライン世界を繋ぐ「リアルライフ体験」を提供することだ。

オブセッシーによると、ポップアップストアの期間中、プラットフォーム全体でブランドのフォロワーが13%増加。また、ポップアップストアの商品販売数は1700点を超えたという。

このように小売ブランドに大人気のポップアップストアだが、ほかの業界でも流行している。ファッションサイトの「リファイナリー29」は、2016年秋冬ファッションウィークのために、29室からなるポップアップスペースを開設した。

アイスクリームブランドのマグナムは6月、アイスクリームバーをカスタマイズできるポップアップイベントを開催。シンガポール産ビールブランドのタイガーも6月、現代のアジア芸術とデザインを観賞できるポップアップストアをソーホーに出店した。ポップアップなら、比較的安価に、商品の販売、体験、そしてブランドのプレゼンスをまとめて提供できる。

最小限のリスクで市場参入

ポップアップストアを実験の場として活用するケースもある。たとえば市場テストだ。カナダのアパレルブランド、キット・アンド・エースは、この戦略のおかげで、2年間で63カ所にオープンできた(毎月1店舗の出店ペースでも5年を要する数字だ)。

同社は、カナダの実業家チップ・ウィルソン氏の妻、シャノン・ウィルソン氏と息子のJJウィルソン氏が創業。小売責任者を務めるレイシー・ノートン氏いわく、ポップアップストアの開設は、コミットしすぎることなく、ひとまず市場に進出する手段だという。化粧品ブランドのエリザベス・アーデンが今年、パリに初のブティックを一時的に開設し、その後これを大型の旗艦店に変えたのも、同じ戦略による。

一部の小売業者は、新しいタイプの商品をテストするのにポップアップストアを使っている。ファッションブランドのケイト・スペード・ニューヨークは3月、2カ月限定のポップアップショップを開設し、ホームグッズのコレクションを並べた。CMOのメアリー・ビーチ氏は、「実店舗は、ケイト・スペード・ニューヨークのブランド体験の集大成だ」と語る。ビーチ氏によると、このポップアップストアはブランドの知名度を高めると同時に、eコマース事業にもインパクトをもたらしたという。「ニューヨーク市域に住む顧客によるkatespade.comの利用が、2倍近くに高まった」。

顧客に展示して提供するため、多様な流通方法を実験したいファッション小売業者や、オートクチュールのデザイナーは、一時的なストアを活用することで、うまくいくかどうかを最小限のリスクで検証できる。

ファッションデザイナーのアレキサンダー・ワン氏は「ニューヨークファッションウィーク」で、「いま見ていま買う」ロジスティクスを実験するため、「ポップアップトラック」を駆使した。JWTのジェイムズ氏は、「ひとつの環境でブランドと商品が一緒になり、混じり合う。ポップアップストアはそんな場所になっている」と語った。

Shareen Pathak (原文 / 訳:ガリレオ)

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DIGIDAY[日本版]編集部

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