日銀の「2年で2%物価上昇」達成は不可能 「物価上昇の決め手」賃金は労働者の若年化で上がらず

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それでは、黒田日銀は何を狙っているのか。ポートフォリオリバランス効果ということらしい。これは、国債を7割買い占めることにより、これまでの国債の投資主体が国債を買えなくなり、やむをえず、ほかの資産へ資金を移すことを狙っているということだ。国債への投資は最もリスクが低いと見なされているから、ほかへの投資ということは、リスクテイクを増やすということになる。

これは、中小の金融機関には望ましくないうえに、ひずみが広がり、また、金利上昇、国債暴落リスクがあり、たいへん危険で、メリットもない政策なのであるが、その是非はともかく、これでは、物価上昇効果はない。国債が値上がりし、国債から追い出されても、結局、それは実需には向かわずに、別の資産を買うことにより、資産市場を膨らませるだけのことだからだ。株価の上昇は、企業の資金調達を助けるわけではない。資金ニーズによるし、しかも低金利の今、増資をする企業は限られている。そして、IPO企業はバブルに沸く可能性はあるが、それは上場で創業者が利益を得るだけで、実需にはつながらない。

期待インフレ率の上昇は、将来の物価上昇につながらず

物価には影響しなくても、期待インフレ率には影響するのではないか。そういう議論はあるだろう。期待インフレ率の上昇とは、名目金利の上昇を即時にもたらすから、景気にはマイナス、財政には大幅マイナスなのであるが、そこは日銀がさらに国債を買い増しして、名目金利を上げさせない、ということなのだろう。

これが、なぜ意味を持つかというと、期待インフレ率が上がり、名目金利が固定なら、実質金利が低下するから、ということなのだ。しかし、これも意味がない。ゼロ金利の制約の下、実質金利を下げるにはこれしかない、と言うが、それは誤りで、前述したように、短期金利はゼロであっても、長期金利はゼロではなく、リスクプレミアムもゼロではないから、この両者を低下させることは可能なのだ。したがって、期待インフレ率に働きかけるのは、物価に働きかけるよりも、洗練された手法で優れているかのような主張がなされているが、それは間違いで、名目金利を完全に押さえ込める保証もなく、そのための金融コストも大きいことから、むしろ、期待インフレ率を上げずに、国債買い入れの直接的な効果、国債の価格上昇を狙ったほうが、その意味ではましなのだ。

さらに、本稿での文脈で言えば、期待インフレ率の上昇は、将来の物価上昇をもたらすと言うが、それは誤りだ。物価上昇を起こせない以上、期待インフレ率の上昇はありえない。なぜなら、期待が合理的に形成されるのであれば、すべては物価上昇が実際に起こるかどうかがすべてであるからだ。

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