急ぎすぎた「マック改革」超深層  「藤田田」全否定に、社員、FCは疲労困憊

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昨年4月、オーナー会は原田社長宛に「要望書」を提出し、クーポン券の乱発や営業時間の一律延長をやめ、近隣出店時の融和策を実施するよう要請した。だが、オーナー側の議事録によれば、フランチャイズ本部のグレイグ・レナード本部長はこう述べた。「戦略は何度も説明しているのに、オーナーは非協力的だ。そのくせ、財務が苦しい、助けてほしいとはいかがなものか。こうした依存体質は新宿でブルーテント生活をしている人々と変わりない」。

7月10日。新宿アイランドタワー高層階の日本マック本社。原田社長に疑問をぶつけてみた。「(訴訟や組合、FC問題も)ほんの一部の異例な話ですよ。異例な話」。

なるほど、1600人の直営店店長のうち、組合参加者は1割強だ。だが、日本マックの風土の中で、組合を結成するという決意は重い。その

“重さ”を「ほんの一部の話」と片付けてしまっていいのだろうか。

「藤田時代は仕事は今以上にハードだったが、頑張った分だけ昇進、昇給で見返りがあった」。社員やOBは口をそろえる。のれん分けのFC制度も、「解雇なきリストラ」という一面があると同時に、これが社員のモラールを高め、定着率の向上に一役も二役も買ったことは間違いない。いかにシステム化、マニュアル化しても、典型的な労働集約産業である外食産業の成長の原動力は人。だからこそ、藤田氏は合理主義を掲げながら、「運用の妙」に心を砕いたのだろう。

藤田流を全否定するあまり、原田社長は、「原動力は人」という視点まで根こそぎにした。むき出しの効率主義、しかも、スピード最重視。当然、摩擦は高まる。「(組合やFC問題を)無視するわけにはいかないが、もっと大多数がプラスに動いているからこそ、この数字がある。この数字がすべて」(原田社長)。

だが、目先の数字は上がっても、原動力の人が疲弊すれば、長期的な成長は不可能だ。スピーディな「原田改革」とともに、かつて鉄の結束を誇った「マック一家」の“溶解”もまた、猛スピードで進んでいる。

(週刊東洋経済2006年8月5日号)

風間 直樹 東洋経済コラムニスト

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。2014年8月から2017年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、2019年10月から調査報道部長、2022年4月から24年7月まで『週刊東洋経済』編集長。著書に『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』(2022年)、『雇用融解』(2007年)、『融解連鎖』(2010年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(2013年)など。

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