急ぎすぎた「マック改革」超深層  「藤田田」全否定に、社員、FCは疲労困憊

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Sオーナーは26歳で日本マックに入社。世界の5000号店、江ノ島店のオープニングスタッフを務め、創立者のレイ・クロックから激励された。96年に45歳で独立、1400万円の退職金を資本金としてFC契約を結び、営業権、有形固定資産の買い取りに6000万円以上つぎ込んだ。契約更改を拒否され、買い取り価格もゼロとなれば、投下資本は到底、回収できない。

結局、Sオーナーが押し戻し、再度900万円が提示されたが、数千万円の銀行借り入れが残っている。「このままでは会社は倒産、私個人は自己破産しかない。この年で無一文で無職になる。マクドナルドが好きで30年も尽くしてきたのに、こんな仕打ちを受けるとは」。

一方的な契約書 藤田氏の“二面性”

そもそも、日本マックにとって、FCの店舗数は3割だが、収益への貢献は小さくない。前期、同社の連結営業利益が32億円にとどまる中、FC店から上がる収益(FC収入-FC収入原価)は90億円に上る。

FCオーナーは毎月2回、総売上高の6~14%をロイヤルティとして自動的に引き落とされる。さらに4・5%の広告宣伝費、6・5~16%の家賃もある。総売上高に一定のパーセンテージを乗じる点がミソで、粗利益額に乗じるコンビニエンスストアよりも“貪欲”だ。「100円マック」は食材費がかさみ粗利は薄いが、それで売上高が伸びれば、本社の収入は拡大するためだ。

これほど“おいしい”FCを原田社長が執拗に“攻撃”するのは、このFCシステムこそ、原田社長が否定してやまない故藤田田・元社長の経営哲学の「結晶」だからである。

言うまでもなく、藤田氏は日本マックの創業者。「日本のユダヤ人」と自称するように、利益への執念、厳格な合理主義が看板だったが、実は、「ユダヤ」的なるものを「日本」的なオブラートで包み込むところに、藤田流のエッセンスがあった。

現在、FCオーナーに対して日本マックが強気に出るのは、「FC契約書」と「FC全国基準」があるからだ。FC契約書には、契約の有効期間は10年かぎりで自動更新せず、収益性についても何ら保証しないと明記されている。また細かな契約違反事項を列挙し、本社側からの契約解除が可能となっている。

基本的にこれを定めたのは、藤田氏だ。契約終了時の「固定資産等の買戻に関する覚書」も、適用されるのはあくまで両者合意で終了したときのみ。本社が再契約を拒絶した場合などは、本社が一方的に定める買い取り価格が適用されることになる。

これほど、一方的に本社に有利な契約方式を決めておきながら、藤田時代、その運用は極めて「日本」的だった。「従来は、再契約がなされない加盟店はほとんどなかった」(元オーナー)。別のオーナーも証言する。「1期10年が終わり2期目に入ってようやく利益が出るようになる。営業権や固定資産の償却が終わり、借入残高も減り余裕が出てくるためだ。利益の出ない1期しかやれないのに数千万円も投じてFCオーナーになる人間はいない」。

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