「コア」とはどのような概念か?
少し難しい話だが、「コア」という概念、これはたとえば、「個人やグループが提携し、自分たちの中だけで財を交換しあったら、誰の満足度も損なわずに誰かの状況が改善した」といったとき実現したことになる。
パレート効率的であると同時に、自分の持ち寄った財より悪いものをつかまされるリスクは排除されるのが「コア」、より正確には「強コア」という配分だ。
非常に望ましい性質を持つこの「強コア配分」は、交換問題に、必ず一つは存在すると知られていて、それをぜひ実現したい!――となったときの探し方こそが、TTCメカニズムなのだ。
ちなみに、本文中では実際に参加者が動いて交換を行っているように説明したが、実際にはランキングを提出してもらいさえすれば、それをもとにして、第三者であるマッチメイカーが、機械的に作業を進め、同じ結果が得られる。
実際の活用例:腎臓移植のために
さて、こういった仕組みが実際どのように現実に役立っているのかを、最後にご紹介しよう。
たとえば、まだごく一部ではあるが、アメリカ東部の病院では腎臓移植に際し、患者とドナーのマッチングに、このTTCメカニズムと似た仕組みが使われている。
腎臓は各人二つあるので、何らかの原因で病気を患った人がいた場合、近しい人、典型的には配偶者が、「私の腎臓を移植してください」と、ドナーの名乗りを上げるケースが多い。
患者とドナーが適合条件を満たして無事に移植できれば複雑な問題は何も起こらないのだが、往々にして、条件が合わない不幸なペアは存在する。
目指すのは、この条件の合わないペアを集め、うまく相手を交換することで、適合条件を満たすペアとして効率的に再マッチさせることだ。
例に挙げて説明したような不幸な交換を避け、できる限り多くの人の状況を改善するために〝TTCメカニズムのアイデアに基づいた交換の仕組み〟を導入しているケースが、現にある。そんなところからも、読者のみなさんの、このメカニズムの魅力的な特徴への理解がさらに深まっていったとしたら、幸いだ。
(担当者通信欄)
誰も不幸にならず、誰かの満足度が上がる仕組み。応用できるところがたくさんありそうです!交換に参加したからといって、かならず持っていったものを手放すことになるわけではない、つまり出し惜しみする必要がないというのも素敵です。今回は特にTTCメカニズム、近年注目を集めている「マーケット・デザイン」という経済学の分野の知見をご紹介しました。実は、この「インセンティブの作法」では、以前にも「『相思相愛』を実現する極めて具体的な方法」という記事で、「ゲール=シャプレー(GS)アルゴリズム」というマッチングの仕組みを取り上げています。ぜひあわせてご覧ください!
さて、安田洋祐先生の「インセンティブの作法」最新記事は2013年4月8日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、良い値上げ、悪い値上げ)」に掲載です!
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春は出会いの季節、経済学やオペレーションズ・リサーチの分野で「お見合い問題」と呼ばれている理論を使って、最高の伴侶を得る方法を明かします!あえて想いを成就させないことに、深い意味がある……!?
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