お金を使わず幸せに?物々交換の賢い仕組み 東日本大震災の支援物資問題を振り返りながら

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 物資の分配に見られた「効率」と「公平」の難しさ

一見すると、かなりもったいないし、経済学的には非効率に思える。けれども、心が敏感になりがちな非常事態に、支援物資が公平に配られなければ、いざこざが起こりやすくなってしまう。公平性を重視せざるをえない事情が、現実にはあるのだ。

とはいえ、せっかくの物資を無駄にしてしまうのが唯一の解決策とは限らない。たとえ全員に平等に行き渡らないとしても、くじ引きで物資を配れば、仮設住宅への入居者が抽選で決まったケースのように、事前の公平性がうまく働くかもしれない。

また、あるとき何も受け取れない人がいたら、次の機会にはその人を優先するなど、納得感を高める方法は、いろいろとありそうだ。

支援物資をうまく配るためには、できる限り公平性に配慮しつつ、効率性を損なわない方法を考えていかなければならないのだ。

試行錯誤の末に、物資が全員に行き渡ったとしても、それだけで、万事問題なしといってよいかはわからない。人員と時間の限られる避難所で、個々の要望をきめ細かく汲み取るのが難しいケースもあっただろう。

結果的に、本当に欲しいモノや必要なモノを、各人がうまく手に入れられなかったかもしれない。

たとえば、おにぎりが好きな人にサンドイッチ、逆にサンドイッチが好きな人におにぎりを渡してしまうようなケース。単純な例だが、このとき、二人がお互いの状況に気がつけば、物々交換によって、どちらもハッピーになれるのは明らかだ。

二者間の交換だけではなく、三者間でも、XはYのモノを、YはZのモノを、ZはXのモノを受け取ることによって、全員の希望が叶えられることもある。

もっと人数の多いグループのメンバー間でも、有意義な物々交換ができる可能性はある。

ここで、通常の市場取引と違い、交換ではお金を使う必要がない、というのがミソだ。市場は効率的に財を配分する優れた仕組みだが、お金持ちが希少な物資を買い占めることを可能にしてしまう。

また、金銭のやりとりが、盗難の不安などに繋がってしまうおそれもあり、安全面からも好ましくない。

市場を活用できない、あるいは市場のやり方が馴染まない避難所でも、簡単に実行できるのが物々交換の大きなメリットだ。

実際のところ、きちんと無駄なく物々交換を行うのは、かなり難しいだろう。お互いにとって実りある、ウィン‐ウィンの交換機会は、そう簡単に見つからないかもしれない。

そこでここからは、利益の出る相互交換の組み合わせを瞬時に見つけ出し、効率的な配分を実現する、そんな仕組みの話をしていきたい。その単純にして明快な方法は、経済学の世界で「トップ・トレーディング・サイクル(TTC)メカニズム」と呼ばれている。

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