松下幸之助は「ひとつの夢を持つこと」を説いた 問わず語りに語った経営、そして人生

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わしはな、いま86歳やけど、160歳まで生きようと思っとるんや。実際に生きられるかどうかわからんけど、まあ、夢やな。夢ではあるが、それをもって、これから生きていこうと。

80歳の時やったかなあ。誕生日のお祝いに書を貰ったんやけどな、その熨斗(のし)に半寿と書いてあるんや。80で半分なら、きみ、全寿といえば160歳になるやないか。それで160まで生きようと。ハハハ。生きられたらいいという夢やけど、きっと生きようと今心のなかで誓っておるんや。だいたい人間は、ひとつの夢を持って、求めて生きていくことが大事だと思うな。

方針を明確に打ち出す

わしは今まで長い間、経営というものに携わってきたけど、方針というものをいつも明確にしてきたな。こういう考え方で経営をやるんだ、こういう具体的な目標を持って経営を進めるんだ、こういう夢を持っていこうやないか、とつねに従業員の人たちに話し続けてきたんや。

どうしてこういうように方針を出してきたかというと、人は誰でもそうやけど、自分が一生懸命努力して、これならいい結果を出したと思って、それで上の人に報告したら、そんな結果は期待しておらんかった、そう言われるぐらい辛いものはないわなあ。ましてや叱られ文句を言われたらもう泣きたくなるわな。それはどちらがアカンかというと、上の人やな。上司というか責任者やな、その人がはっきりと方針を出しておらんから、そういうことになるんやな。

方針によって従業員は自分の努力の方向を知るんや。こういう考え方でやらんといかんのやな、こういう目標に取り組まんといかんな、とかわかるわな。それだけではなく、夢というか理想というかそれがはっきりしておれば、自分の努力が結局どこにつながるのかよくわかるわけやな。そうすれば従業員は一生懸命努力して、たいていは期待どおりの結果を出してくれる。そういうもんや。基本理念や具体的目標、それに理想という3つの内容を持った、そういう方針というものを出さん指導者は失格だということにになるわな。

それにそういう方針を明確にしておくと、経営者自身も自分の判断や行動の物差しができるから、力強い動きができる。経営をしておると、いつもいつも迷うことが多いわね。右にしたらいいのか、左にしたらいいのか、わからんと。はっきりと見分けられるものならいいけど、そういうものは案外少ない。どうしようかと迷う。そんなときにこの方針に照らして、右に進んだらいいのか、左に進んだらいいのか考える。そうすると、たいていはどうしたらいいのかわかるわけや。

その方針がしっかりとしていると、そして経営者がいつも必ずその方針を守ると、経営者の行動に非常に力強いものが出てくる。そういう経営者は従業員からも、なかなかしっかりした、一本筋の通った人やなあということで、尊敬もされるわな。頼りになる人や、こんな人に経営を任せておけば大丈夫だと、そういうことになる。給料も間違いなく貰えるということになるやろ。

お客さんも取引先も、そういう方針があればその会社がどんな考え方か、どういうところを目指しているかわかるからな。ああいう考え方ならば、その会社の製品を買ってあげよう、それならばその会社と一緒に仕事をしてもいいということにもなるな。方針が明確にあるということは、言わば会社の信頼にもなる。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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